宇野昌磨に見られたポジティブな変化 FSの最後に4回転を入れた理由とは

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リスキーな挑戦に「満足」

全日本フィギュアの演技を終え満足そうな表情を見せる宇野昌磨(右)と樋口美穂子コーチ 【坂本清】

 思わず目を疑ってしまった。宇野昌磨(中京大中京高)が最終ジャンプの体勢に入る。事前に提出されていた演技構成表では、ダブルアクセル+1回転ループ+3回転フリップの予定だった。しかし、明らかに踏み切り方が違う。宇野は4回転トウループに挑んだのだ。

「1本目の4回転を失敗したときに、珍しく3回転どころか2回転になってしまったので、絶対どこかでやってやろうと思っていました」

 確かに冒頭の4回転トウループは2回転になってしまったものの、それ以降のジャンプは確実に決めていた。さらには演技後半もコンビネーションにこそできなかったが、4回転トウループを成功させ、GOE(出来栄え点)も2.29点を得ている。2枠しかない世界選手権の出場権が懸かっていることを考えれば、リスクを冒す必要はなかったのだ。しかし、宇野はそれを承知した上で攻めに出た。

 結果的にジャンプは冒頭と同じように2回転となってしまった。フリースケーティング(FS)の得点は169.21点。追いすがる無良崇人(HIROTA)をかわし、宇野は全日本選手権で2位に食い込んだ。

 リスキーな挑戦に打って出た宇野だが、演技後の顔は晴れ晴れとしていた。

「冒頭と最後の4回転がパンクしてしまい、悔しい気持ちもありますが、他のジャンプは良かったと思いますし、何より攻める気持ちで逃げずに終われたことに満足しています」

自分を客観視し、冷静に現状を分析

全日本フィギュア男子FSで滑走する宇野昌磨。攻めの姿勢を貫いた 【坂本清】

 寡黙で自分にできることを地道にコツコツやっていく。ミックスゾーンや会見で話を聞いていて抱いた宇野の印象だ。童顔だが、18歳とは思えないほど地に足が着いており、派手な言動は一切ない。むしろ朴訥(ぼくとつ)という言葉が一番しっくりくる。そんな宇野だが、今大会ではこれまでにないくらい自信に満ち溢れた表情をしていた。それはコメントにも表れている。

「ショートプログラム(SP)はミスが多かったので、なんとかジャンプを成功させることができてよかったです。予想よりはるかに大きな点数(97.94点)が出ましたけど、課題も見つかったし、まだまだできることはあるので、今は演技にも得点にも満足していないことがいいかなと思います」

 ハイスコアにも決して浮かれず、自身の気持ちを整理し、それを自らの言葉で説明する。これまではうまく言葉にできていなかったことも、シニアに参戦し、自信がつくにつれ、少しずつ口に出せるようになってきた。気持ちの面でも変化があったという。

「昨シーズンとは試合に対する気持ちの持っていき方が違います。ジュニアのときは何も考えずにやってこられたんですけど、そのままでは世界大会のようないろいろなものを背負うときに何もできない。そういう気持ちの持ち方が少しずつシニアの選手に近づいている気がします」

 こうしたコメントを聞くかぎり、宇野は自分を客観視して、冷静に現状を分析する能力を持っているように思える。だからこそ、なぜFSの最後で4回転にあえて挑戦したのか気になった。

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