“手探り”で切り開くアジア戦略 大宮アルディージャのユニークな試み

宇都宮徹壱

スタートは「まずアジアに飛び込んでみる」

大宮アルディージャのアジアでの取り組みについて、プロジェクトマネージャーを務める秋元さんに語ってもらった 【宇都宮徹壱】

 Jリーグを語る上で、もはや欠かせない要素となった「アジア戦略」。すでにオフに入った今季のJリーグだが、日本代表を苦しめたシンガポール代表GKのイズワン・マフブドが松本山雅FCのトライアルを受けたり、“ベトナムのピルロ”ことグエン・トゥアン・アインの横浜FCへの加入が決まったり、「アジアとの近さ」を感じさせるニュースは今も続いている。

 最近の日本代表の取材現場でも、各クラブのアジア戦略を強く感じることがある。11月にワールドカップ・アジア2次予選が行われたカンボジアでは、アビスパ福岡と大宮アルディージャの関係者と会う機会があった。福岡はU−18チームが、プノンペンで開催された「福岡サッカーウィーク in カンボジア」に参加。地元クラブのカンボジアンタイガーFCと親善試合を行ったり、日本人学校の生徒や現地の子供たちを対象にしたサッカー教室を開催したりしている。一方の大宮は「大宮アルディージャ サッカー教室 in ラオス&カンボジア」を開催。この活動は昨年10月からスタートして、今回が3回目である。

 この大宮のアジアでの取り組みについて、プノンペンで担当者に話をうかがうことができた。取材に応じてくれたのは、秋元利幸さん(育成普及本部 プロジェクトマネージャー)、43歳。秋元さんは、大宮東高、早稲田大、徳島ヴォルティスを経て、2000年から大宮で主にチーム周りの仕事を続けてきた。クラブのアジア戦略に関わるようになったのは昨年から。新規プロジェクトの立ち上げを社長から命じられ、秋元さんの頭に浮かんだのがアジア戦略だったという。

 実のところ大宮のアジア戦略は、まだスタートしたばかりだ。昨年10月から続いているアジアでのサッカースクールも、秋元さんが自ら現地に飛び込み、持ち前のバイタリティーと自身のサッカー人脈も駆使しながら形にしていくという、まさに“手探り”によるものである。このプロジェクトが、本格的なクラブの事業となっていくのは、まさにこれからというのが現状。「とりあえずアジアに飛び込んでみる」という、まさに飛び込み営業のような大宮のアジア戦略は、秋元さんの強烈な個性が大きな突破口となっている。

 本稿では、大宮のアジア戦略がどのように始まり、具体的にどのような成果を生み出しているのか。自らを“バカ代表”と称する、秋元さんの言葉を再構成しながらお伝えすることにしたい。(取材日:2015年11月16日 プノンペンにて)

「サッカーを通じてこの子たちを笑顔にさせたい」

大宮は本格的なアジア戦略の前段階として、アジア各国でサッカー教室を開催している 【写真提供:大宮アルディージャ】

 私は現在、育成普及本部というところでプロジェクトマネージャーをしております。具体的には、クラブのアジア戦略の基盤づくりをしているところですね。クラブ全体として「アジア戦略をどうやっていくのか」というのは、ビジョンやゴールを模索している段階です。私がやっているのは、本格的なアジア戦略の前段階として、いろいろな国とのコネクションというか、ネットワークを広げる活動をしておりまして、その手段としてアジア各国でサッカー教室を開催しているんです。

 私は徳島で選手を引退して、00年からずっと大宮でトップチームの仕事をやっていました。最初はマネージャー、それから強化担当、そしてチーム広報とずっと現場だったんです。そしたら去年、鈴木社長から「秋元は一度現場を離れて、新たなプロジェクトを立ち上げてみろ」と言われたんですね。それで、クラブのビジョンに基づいた具体的な施策案の中に「アジア戦略」というのがあったのですが、具体的にはまだ何も始まっていなかった。Jリーグのアジア戦略も動き始めたところでしたし、これなら自分で何かできるかもしれないと思って、昨年の2月にカンボジア、ラオス、シンガポールを回ってきたんです。

 幸いにも現地では、大学のサッカー部の先輩や後輩があちこちで活躍していて、彼らに助けられたことが大きかったですね。いろんな人を紹介してもらったり、あちこちを案内してもらったり。自分にとっては初めてのアジアだったのですが、カンボジアでは自分の息子と同じくらいの子供たちが、学校にも行けずに一日中ゴミ捨て場から使えそうなものを漁っている姿を見て衝撃を受けまして。その時はまだ漠然とですが、「サッカーを通じてこの子たちを笑顔にさせたい」と考えるようになりました。

 ラオスでも、現地で技術委員長をされている先輩にお世話になったのですが、その時に入ったレストランにJCBの日本語のパンフレットが置いてあったんですよね。ふと、JCBがJリーグのスポンサー(Jリーグトップパートナー)だったことを思い出して、帰国後すぐにJCBで働いている後輩を通じて、われわれが東南アジアで行うサッカー教室のサポートをお願いしました。ありがたいことに、JCBさんはすぐに動いてくださいましたね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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