UFC“最後の絶対王者”アルド “毒舌王”マクレガーとの決着戦へ!

(c) Zuffa, LLC

“最後の絶対王者”アルドが防衛戦に臨む 【Getty Images】

 世界最大の総合格闘技団体「UFC」において“絶対王者”と呼ばれた者は少なくない。しかし、2年前には7年間無敗でUFCミドル級王者に君臨し続けたアンデウソン・シウバがクリス・ワイドマンにまさかの2連敗を喫して王座を譲り、9度に渡ってウェルター級タイトルを防衛してきたジョルジュ・サンピエール(通称GSP)は一昨年に休養と王座返上を発表して以来、オクタゴンと無縁の状態が続いている。さらに、先月には女子バンダム級の最強女王ロンダ・ラウジーもTKO負けで王座陥落……。そんな世界でただ一人、勝ち続けているのがフェザー級のジョゼ・アルドだ。

 ラスベガスのMGMグランドで現地時間12月12日(土)に10年間負けなしの“最後の絶対王者”が、最強の敵コナー・マクレガーを迎え撃つ!

破壊力抜群の打撃を持つアルド

 試合開始と同時に相手に接近し、瞬時に宙を舞うと続けざまに左右のヒザを相手の顔面にたたき込むアルド。相手は顔面からマットに倒れ、アルドがさらに追撃のパンチを2発見舞うと、レフェリーがあわてて試合を止めた。わずか8秒のTKO劇である。

 これは2009年6月に米国カリフォルニア州サクラメントで行われたWEC(ワールド・エクストリーム・ケイジファイティング)での出来事。ブラジル出身のアルドにとってデビュー以来、15度目の勝利だった。だが、この時の相手、カブ・スワンソンも決して弱い選手ではない。アルド戦の半年前には日本の“ケンカ番長”こと高谷裕之に勝利したばかりであり、打ち破った高谷はその後、DREAMフェザー級王者に輝いている。

 アルドはこの恐るべき飛びヒザ二段蹴りだけでなく、相手の脚を破壊するローキック、金網を蹴ってのパンチ、バックを取って倒そうとする相手に振り向きざまのヒザ蹴りなど、ド派手な破壊力抜群の打撃を持つ。

 04年のデビュー戦で18秒KOして以来、25勝1敗の戦績を誇り、10年間無敗、18連勝中のアルド。これまでに打ち勝った相手は元UFCライト級王者フランク・エドガー、元WEC王者ユライア・フェイバー、同マイク・ブラウン、元修斗ライト級王者アレッシャンドリ・“ペケーニョ”・ノゲイラなど、そうそうたる顔ぶれである。

 現在、UFCの現地解説を担当するケニー・フロリアンは、かつてUFCの登竜門番組『TUF(ジ・アルティメット・ファイター)』のシーズン1で準優勝し、ジェイ・ディー・“BJ”・ペンの持つライト級王座にも挑戦したことのある強豪ファイターだったが、フェザー級タイトルを懸けてアルドに挑戦したのが最後の試合になった。というのも、強烈なローキックで脚を破壊され、引退を決意したのだ。後に、フロリアンはその時の痛みを思い出したのか、苦い顔でこう語っている。

「アルドのローキックはこれまでの人生で一番痛いローだった」

サッカーとカポエラ、柔術、そして総合デビュー

 15回のKO勝ちを誇るアルドはパンチを得意とするものの、試合を組み立てるのはやはり強烈な蹴りだ。その強さの秘密は少年時代に経験したサッカーとカポエイラ(足技を主体としたブラジル格闘技、カポエラとも言う)、さらにオランダで取り組んだキック訓練にある。

 アマゾン川流域の街マナウスの貧しい家庭に生まれたアルドは少年時代、プロサッカー選手になることを夢見てサッカーに明け暮れていた。しかしながら、体が小さかったため、大柄な子供たちに毎日のように殴られていたことから、自分の身を守るためにカポエイラを学び始める。

 アルドが14歳の頃、道端でカポエイラの練習に励む姿を道場の指導者が目に留める。その指導者に誘われて道場に行ってみたアルドはすっかり格闘技に魅せられ、寝技主体の格闘技である柔術に夢中で取り組むようになった。17歳になると、プロ格闘家を目指してリオ・デ・ジャネイロに上京。故郷からバスで3日もかかるこの大都市でトレーニングを始めた。持参した荷物は着替えの服だけ。リオでは治安の悪いファベーラ(スラム街)に住み、首が回らず1日2食しか食べれられなかったアルドは空腹を抱えながら、薄汚れた部屋で一人ぼっちの夜を過ごす。部屋の外から聞こえてくる銃声を耳にするたび、故郷であるマナウスにいる家族が恋しくてホームシックになった。

「俺の選択は正しかったのかな?」

 そう悩むこともあったという。それでも、「とにかく自分を信じるんだ」と言い聞かせながら、ひたすらに練習に打ち込むことでアルドは不安を抑え込んだ。

 そして18歳を迎えるひと月前、04年8月についにプロデビューを果たす。デビュー戦に挑んだアルドはハイキックで18秒KO勝利し、さらに7戦続けて1ラウンドで勝負を決めた。05年に階級を上げてライト級に挑戦した結果、初黒星を喫するが、その後、フェザー級に戻して再び連勝街道をばく進。スワンソン戦から5カ月経った09年11月にはWEC王者マイク・ブラウンを相手に2ラウンドTKO勝ちを挙げ、当時の軽量級で世界最高峰の団体だったWECのフェザー級王座を手中に収めた。アルドがWEC王座を2度防衛した後、UFCがWECを吸収したため、スライドする形で初代UFCフェザー級王者となったアルドはUFCで7度の王座防衛に成功している。今回のマクレガー戦が8度目の防衛戦だ。

 アルドは“修斗のカリスマ”と呼ばれる佐藤ルミナをKOしたアンドレ・ペデネイラスが率いる名門ジム、ノヴァウニオンに所属し、ここで元UFCバンダム級王者のヘナン・バラオンや元戦極フェザー級王者マルロン・サンドロらと切磋琢磨(せっさたくま)する日々を送っている。UFCヘビー級タイトルに挑戦した経験もある“ブラジルの打撃王”ペドロ・ヒーゾから長年に渡って指導を受けているが、“キック王国”オランダにも何度も出稽古に行き、元K−1王者であるアンディ・サワーとも特訓している。サワーはかつて魔娑斗をTKOしたファイターだ。名コーチたちのもとで強豪と競い合いながら猛練習に励み、今も貧しい時代のハングリーさを失わずに勝利への周年を持ち続けていること――それがアルドの強さの秘密なのだ。

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