「史上最強の3位」が残した教訓 J1昇格プレーオフ決勝 福岡対C大阪

宇都宮徹壱

長居で決勝が行われることへの戸惑い

今年のプレーオフ決勝の会場は大阪・長居。C大阪が有利と思えるのだが、サポーターの心情は複雑だ 【宇都宮徹壱】

 J1昇格プレーオフ決勝の前日、12月5日。その日、エディオンスタジアム広島で開催されたサンフレッチェ広島とガンバ大阪のチャンピオンシップ第2戦を、私は大阪某所にあるお好み焼き屋で観戦していた。『CHANT(チャント)』という店名からも分かるように、ここはサッカー中継を楽しみながら食事ができる店として有名で、セレッソ大阪のサポーターがよく集まることでも知られていた。

 店内が最も盛り上がったのは後半31分、途中出場の浅野拓磨のゴールで広島が1−1に追いついた瞬間だった。店内にいるほぼ全員が、広島の優勝を望んでいた──というよりもG大阪の逆転優勝を断じて望んでいなかった。さすがに喜びの度が過ぎたのか、「みんな、心が汚れている!」という女性の声が挙がる。すかさず「変なこと言わんといて! 広島を応援しとるだけや!」「今日だけな(笑)」という返し。ああ、大阪だなと思った。

 光り輝くJ1の舞台。店内にいたC大阪のサポーターたちは、自分たちが「元いた場所」を、あらためて強く感じたに違いない。そしてスポットライトが当たる舞台への復帰まで、彼らはあと1勝と迫った。昨シーズン、ウルグアイの至宝ディエゴ・フォルランを獲得しながら、まさかのJ2降格。1シーズンでのJ1復帰を誓った今季は、レギュラーシーズンを18勝13分け11敗の4位で終え、初めてプレーオフに進出する。そしてホームのヤンマースタジアム長居で行われた準決勝では5位の愛媛FCに0−0で引き分け、同点の場合は上位チームの勝利というレギュレーションにより決勝進出を決めた。問題は、その会場である。

 プレーオフの出場4チームが確定したとき、決勝の会場が長居になったことを疑問視する声が挙がったのは、ある意味当然のことと言えた。プレーオフの準決勝2試合は、いずれも上位チームのホームで、そして決勝は中立で行われる。だが、C大阪が4チームに含まれている時点で、長居を「中立」扱いをするにはいささかの無理があったと言わざるを得ない。しかも決勝の相手は、レギュラーシーズン3位のアビスパ福岡。結果として上位チームが不利を被る形となったわけだが、あるセレサポ(C大阪のサポーター)は「ウチが有利と言われることには困惑しています」と渋い表情を見せる。

「そもそも昇格を目指しているチームは、最初からプレーオフ決勝なんて目指していないわけですよ。ウチだって本当は無条件で昇格したかったわけだし。それに決勝の会場は3月の時点で決まっていたんでしょ? チャンピオンズリーグだって、ファイナリストのホームで決勝が行われることがありますが、最初から決まっていたことだから誰も文句は言わない。今回も、決まった時点で発表していたら、こんなに問題にはならなかったと思いますよ」

9連勝の福岡とスクランブル体制のC大阪

「ビジター」のC大阪はセカンドユニを着用。山口、玉田、橋本など、新旧の日本代表が顔をそろえる 【宇都宮徹壱】

 期せずして長居で決勝を戦うこととなったC大阪。だが当のサポーターは、この件に関してはいたって冷静である。むしろ「ウチは長居での大一番に弱いんですよね」と、戸惑っているサポーターもいるくらいだ。その理由について、彼はこう続ける。「まず、2000年のファーストステージ。あと1勝でステージ優勝という最終節で、川崎(フロンターレ)にVゴール負けをしました。それから05年の最終節も、勝てば初優勝という状況で1点リードしていたんですけれど、アディショナルタイムで追いつかれて、ガンバに逆転優勝を持っていかれました。どちらも長居での試合だったんですよね」。

 一方で長居には、心強いジンクスもある。02年11月16日のアルビレックス新潟戦、そして09年11月8日のザスパ草津(現ザスパクサツ群馬)戦は、いずれもC大阪がホーム長居でJ1復帰を決めている。「長居での大一番に弱い」とされるC大阪だが、ことJ2時代においては逆に勝負強さを発揮しているのである。とはいえ、今回迎え撃つのは今季2戦とも0−1で敗れている福岡。第35節の直接対決以降の戦績も対照的で、怒涛の9連勝(プレーオフ準決勝含む)で波に乗る福岡に対し、C大阪は連勝がひとつもないまま3位との勝ち点差は広がり続けた。

 思えば今季の開幕を迎えるにあたり、C大阪の体制は極めて盤石なものに思われた。指揮官はJリーグをよく知るブラジル人、パウロ・アウトゥオリ。そして、玉田圭司、橋本英郎、関口訓充、茂庭照幸といった元日本代表を獲得した。退団が規定路線だったフォルラン、カカウの穴を補えるだけの豪華布陣。ところがフタを開けてみると、肝心な試合での取りこぼしが相次ぎ、1度も自動昇格圏内に上り詰めることはなかった。秋口に入ってからは3位をキープしていたものの、ボトムからじわじわ順位を上げてくる福岡をかわしきれず、直接対決に敗れて以降は両者の立場が完全に逆転する。

 その後、第40節のツエーゲン金沢戦(0−3)と第41節のV・ファーレン長崎戦(0−2)での連敗により、ついにフロントは決断。最終節を待たずしてアウトゥオリは解任され、大熊清強化部長が指揮を執ることになった。すでにプレーオフ進出を確定させていたといはいえ、あまりにもリスクのある決断。しかしネットの論調を見る限り、この決断に否定的なサポーターは少数派であった。強化部長である大熊が指揮を執ることについても「他に選択の余地がなかった」ことに加え、「きっちり任命責任を果たしてほしい」という意見も聞かれた。昨シーズン、監督が3人も替わった末に降格の憂き目に遭ったC大阪。「1シーズンでのJ1復帰」のために断行された今回のスクランブル体制は、果たして吉と出るのだろうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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