「史上最強の3位」が残した教訓 J1昇格プレーオフ決勝 福岡対C大阪
長居で決勝が行われることへの戸惑い
今年のプレーオフ決勝の会場は大阪・長居。C大阪が有利と思えるのだが、サポーターの心情は複雑だ 【宇都宮徹壱】
店内が最も盛り上がったのは後半31分、途中出場の浅野拓磨のゴールで広島が1−1に追いついた瞬間だった。店内にいるほぼ全員が、広島の優勝を望んでいた──というよりもG大阪の逆転優勝を断じて望んでいなかった。さすがに喜びの度が過ぎたのか、「みんな、心が汚れている!」という女性の声が挙がる。すかさず「変なこと言わんといて! 広島を応援しとるだけや!」「今日だけな(笑)」という返し。ああ、大阪だなと思った。
光り輝くJ1の舞台。店内にいたC大阪のサポーターたちは、自分たちが「元いた場所」を、あらためて強く感じたに違いない。そしてスポットライトが当たる舞台への復帰まで、彼らはあと1勝と迫った。昨シーズン、ウルグアイの至宝ディエゴ・フォルランを獲得しながら、まさかのJ2降格。1シーズンでのJ1復帰を誓った今季は、レギュラーシーズンを18勝13分け11敗の4位で終え、初めてプレーオフに進出する。そしてホームのヤンマースタジアム長居で行われた準決勝では5位の愛媛FCに0−0で引き分け、同点の場合は上位チームの勝利というレギュレーションにより決勝進出を決めた。問題は、その会場である。
プレーオフの出場4チームが確定したとき、決勝の会場が長居になったことを疑問視する声が挙がったのは、ある意味当然のことと言えた。プレーオフの準決勝2試合は、いずれも上位チームのホームで、そして決勝は中立で行われる。だが、C大阪が4チームに含まれている時点で、長居を「中立」扱いをするにはいささかの無理があったと言わざるを得ない。しかも決勝の相手は、レギュラーシーズン3位のアビスパ福岡。結果として上位チームが不利を被る形となったわけだが、あるセレサポ(C大阪のサポーター)は「ウチが有利と言われることには困惑しています」と渋い表情を見せる。
「そもそも昇格を目指しているチームは、最初からプレーオフ決勝なんて目指していないわけですよ。ウチだって本当は無条件で昇格したかったわけだし。それに決勝の会場は3月の時点で決まっていたんでしょ? チャンピオンズリーグだって、ファイナリストのホームで決勝が行われることがありますが、最初から決まっていたことだから誰も文句は言わない。今回も、決まった時点で発表していたら、こんなに問題にはならなかったと思いますよ」
9連勝の福岡とスクランブル体制のC大阪
「ビジター」のC大阪はセカンドユニを着用。山口、玉田、橋本など、新旧の日本代表が顔をそろえる 【宇都宮徹壱】
一方で長居には、心強いジンクスもある。02年11月16日のアルビレックス新潟戦、そして09年11月8日のザスパ草津(現ザスパクサツ群馬)戦は、いずれもC大阪がホーム長居でJ1復帰を決めている。「長居での大一番に弱い」とされるC大阪だが、ことJ2時代においては逆に勝負強さを発揮しているのである。とはいえ、今回迎え撃つのは今季2戦とも0−1で敗れている福岡。第35節の直接対決以降の戦績も対照的で、怒涛の9連勝(プレーオフ準決勝含む)で波に乗る福岡に対し、C大阪は連勝がひとつもないまま3位との勝ち点差は広がり続けた。
思えば今季の開幕を迎えるにあたり、C大阪の体制は極めて盤石なものに思われた。指揮官はJリーグをよく知るブラジル人、パウロ・アウトゥオリ。そして、玉田圭司、橋本英郎、関口訓充、茂庭照幸といった元日本代表を獲得した。退団が規定路線だったフォルラン、カカウの穴を補えるだけの豪華布陣。ところがフタを開けてみると、肝心な試合での取りこぼしが相次ぎ、1度も自動昇格圏内に上り詰めることはなかった。秋口に入ってからは3位をキープしていたものの、ボトムからじわじわ順位を上げてくる福岡をかわしきれず、直接対決に敗れて以降は両者の立場が完全に逆転する。
その後、第40節のツエーゲン金沢戦(0−3)と第41節のV・ファーレン長崎戦(0−2)での連敗により、ついにフロントは決断。最終節を待たずしてアウトゥオリは解任され、大熊清強化部長が指揮を執ることになった。すでにプレーオフ進出を確定させていたといはいえ、あまりにもリスクのある決断。しかしネットの論調を見る限り、この決断に否定的なサポーターは少数派であった。強化部長である大熊が指揮を執ることについても「他に選択の余地がなかった」ことに加え、「きっちり任命責任を果たしてほしい」という意見も聞かれた。昨シーズン、監督が3人も替わった末に降格の憂き目に遭ったC大阪。「1シーズンでのJ1復帰」のために断行された今回のスクランブル体制は、果たして吉と出るのだろうか。