WBCとの差別化…五輪復帰への主導権…プレミア12で数多く残った課題と改善点

永塚和志

五輪復帰を見据えた主導権争い

2020年東京五輪での野球・ソフトボールの復帰、そして定着を目指すWBSCのリカルド・フラッカリ会長。MLBに次ぐ長い歴史を持つNPBの興行ノウハウに期待している(写真は2,015年3月) 【写真は共同】

 しかし、大会運営などの主導権を完全にメジャー側に渡したくないという歯がゆさがWBSCサイドには透けて見える。そもそもそれをしてしまってはWBCとの差別化が計れなくなり、目標とする競技の五輪復帰・定着を果たせなくなるからだ。

 リカルド・フラッカリWBSC会長は、将来的にはプレミア12を「メジャーリーグの選手も参加するトップレベルの大会にしたい」と話したが、野球・ソフトボールを2020年の東京大会以降も五輪に定着する方向へ持っていきたいという長期的ビジョンもある。欧州が中心の国際オリンピック委員会(IOC)の重鎮面々の懐に食い込み、競技の良さや国際的普及度をアピールしていくためには、メジャーリーグ主導ではおぼつかないということだ。

 他方では、視聴率の取れるメジャーリーグ選手の参加をIOCからは求められており、バランスの取り方が難しい。今回の第1回大会に関しては、メジャー側との調整はほとんどできていなかったと思われるが、2019年に予定されている次回大会についてはもう少し両者の間の壁を取り払った話し合いができるのではないか。

選手たちのプレー環境の改善を

 課題は、実際の競技運営の面でも目立った。14日間という大会期間で最大8試合という試合数を、日本と台湾でこなさねばならない選手側の体力的な負担がまずあった。その他にも、テレビ中継の関係などからと思われるが、ホスト国である日本や台湾の代表チームの順位などで直前まで次の試合の会場が判明しないという状況もあった。これによって選手たちの精神的な負担にも影響した。

 例えば、15日の侍ジャパンの1次リーグ最終戦。ベネズエラを下し、翌日はプエルトリコと準々決勝を戦うことになったが、その時点でも会場がはっきりせず、「恐らく桃園球場になる」といった情報のみが伝わっていた。そうした状況は当然、侍ジャパンだけでなく他国にとっても同様で、優勝した韓国の主砲・李大浩は「直前までスケジュールがはっきりしなかったのには当惑した」と話し、次回大会以降の改善を求めている。

 他国の選手やコーチらがプレミア12の運営などを「すばらしい」と話したが、本音はどうか。修正点は多々あるだろうが、何よりも選手たちのプレー環境が整わなければあるいは今後、参加を渋る状況も生まれてくるかもしれない(ただでさえ長いシーズンを経て参加している選手たちにとっては心身の負担が大きい)。

NPBの興行ノウハウに期待

 見る側のこちらとしても初めての大会だということであまり目くじらを立てないようにしたい。フラッカリ会長は「多くのチームや関係者からポジティブなフィードバックを得た」と話す一方で、「まずは初めての大会なので改善点があるのは承知している。大会スケジュールなどに関しても各国リーグに配慮しながら最適な大会スケジュールを設定できるように対応していきたい」とした。こうした言葉が本当に実行に移されるならば、次回大会以降は良い大会となっていくことだろう。

 NPBの存在感にも期待が集まる。同会長は「NPBの協力なくしてはこの大会は成り立たない」と明言した。これはお世辞ではないだろう。WBSCとしては、メジャーリーグ以外で長くプロ野球を興行として運営してきたNPBのノウハウに期待している。

 現在は侍ジャパンが株式会社化され、代表チームも常設化された。侍ジャパン側としてもプレミア12という新たな国際大会の成長とともに大会運営手法やプロモーションの力を上げていけば、収益などで頭打ち感があるプロ野球の起爆剤となる可能性もある。

 次回の19年大会は、野球・ソフトボールが20年の東京五輪で復活することになれば、その出場権をかけた予選も兼ねる。4年後はどのような形になって大会が開催されるか。今回、課題が多く残っただけにそれらをどれだけつぶしてくるかに期待したい。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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