WBCとの差別化…五輪復帰への主導権…プレミア12で数多く残った課題と改善点

永塚和志

日台韓以外の試合は閑古鳥

日本でも視聴率が良く、東京ドームで行われた準決勝・韓国戦では多くのファンで埋まったプレミア12。しかし、日程、環境など多くの課題を残した大会でもあった 【写真は共同】

 第1回「世界野球プレミア12」が幕を閉じた。とりあえずは、雨天順延などもなく無事に大会が終了したことは良かったが、一方で今後の課題や改善点が数多く残った。

 日本で侍ジャパンを中心に見ていれば、テレビの視聴率も軒並み良く、準決勝の韓国戦などは多くの観衆の中で行われ、盛り上がったと言える。しかし、大会全体では必ずしもそうだとは言えない。舞台が日本と台湾というアジアで行われ、基本的に日台韓以外のチーム同士の対戦時は閑古鳥が泣くほどの状況で試合が行われた。

 メディアの数にしても、日台韓以外のメディアは、すべての会場に足を運んだわけではないので確実なことはわからないが、おそらくほとんどいなかったのではないか。1人、ドミニカ共和国の新聞記者に出会った。が、彼にしてもチームのパブリシスト的役割も担っているということだったので、渡航費用などは同国野球連盟から出ていたのであろう。

希薄だったWBSCとMLBの関係

 無論、今大会にメジャーリーグの選手(40名ロースター登録をされている選手)が出場しなかったことが大きな原因だった。米国、ドミニカ共和国、ベネズエラなどは本来メジャー選手の参加が認められていれば、かなりのスター軍団になったはずだが、参加しなかったため、無名のマイナー選手たちで構成されたチームで来た。これでは客を呼べるはずもない(余談ながら、決勝戦の直前になって米国代表の3選手が40名ロースター入りし、欠場。決勝戦の興趣を削いだ形となった)。

 まずここに、次回大会以降へ向けての大きな課題がある。プレミア12は国際野球連盟と国際ソフトボール連盟が合併した形で発足した世界野球ソフトボール連盟(WBSC)に運営されるが、同連盟とメジャーリーグの関係はまだまだ薄いと感じた。

 それは大会中にWBSCの某関係者からの以下のような言葉でもわかる。

「世界のスポーツ競技統括団体のトップの間でワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を野球の世界選手権だとは認知されていない。彼らはあの大会をメジャーリーグの私的な大会だと考えているからさ。どのみちメジャーの連中は野球の世界的普及などに目もくれていない。興味があるのはビジネスだ。われわれはプレミア12を真の意味での世界選手権にしたいと考えている」

 こんなこともあった。

 11月8日の札幌での開幕戦へ向かう直前に、某メジャーリーグ関係者と話す機会があったのだが、こちらが「プレミア12へ行く」と伝えると、「プレミア12? なんだそれは?」と返してきたのだ。もちろんこれはメジャーが絡んでいない大会だということに対する軽い皮肉であって、知らないはずはない。

 いずれにしても、以上のような会話を聞くと、WBSCとメジャーリーグの関係が醸成されるにはまだ時間がかかりそうだ。

日台韓が優先されたスケジュール

 ただし、大会を今後さらに盛り上げていくためにはメジャーリーグの協力が必要なのは、現実的には否定のしようがない。今回メジャーリーグのスター選手が出なかったのは残念だったが、それは何もメジャーリーグ側が非協力的だったから、とは言えないようだ。

 日本のプロ野球機構(NPB)や韓国の韓国野球委員会(KBO)、台湾の中華職業棒球大聯盟(CPBL)はWBSCと密接な関係にあり、プレミア12の日程などはまずこの3リーグ終了後に設定されたと言っていい。しかし、この時期だとメジャー球団はマイナーリーグのトッププロスペクト(期待株)をアリゾナ秋季リーグやその他のウインターリーグに送りこむ必要があり、プレミア12の選手選考をするにあたって今回、非常に苦労を強いられた。

 今大会の米国代表のゼネラルマネージャー、エリック・キャンベル氏によれば、「メジャー球団はとても協力的だった」というが、大会スケジュールなどをWBSC側が先んじて決めてしまったために、選手派遣の調整が難しくなってしまった、という(となればウインターリーグに参加しないメジャーリーガーのほうが時間的にはむしろ余裕はあるだろうが、こちらはこちらで選手会の承認を取るのが容易ではないし、莫大な保証金・手当などの問題も出てくる)。

 キャンベル氏は「シーズン前の1月くらいにスケジュールが決まっていればもう少しメジャーリーグとの調整もうまくいったかもしれない」と続けた。メジャーリーグの40人枠に入ってる選手が参加するのはいずれにしても困難だったと思われるが、一方で、今回参加した2Aクラスの選手が大半のチームよりは、レベルの高い3A所属のトップ選手が中心のチームが派遣できたかもしれない。それは、やはり多くが米国のマイナーリーグでプレーする中南米のチームについても同様だ。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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