アジアにおける日本サッカーの位置づけ Jリーグ国際部に聞く海外戦略<前編>

宇都宮徹壱

Jリーグ国際部は兼務2名を含む、4名の小所帯で構成されている。左から、小山さん、リーダーの山下さん、遠藤さん 【宇都宮徹壱】

 今年4月、Jリーグに『国際部』という新たな部署が設置された。といっても兼務2名を含む、合計4名の小所帯である。国際部の前身は、2012年1月に立ち上がった『アジア戦略室』であり、それを発展的に改組したのが国際部ということになる。
 
 言うまでもなくJリーグは日本の国内リーグだが、日本国内だけを見ていれば良いというわけではもちろんない。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)をはじめとする国際大会も増えてきたし、各クラブも今後はますますアジア市場を視野に入れたビジネスが求められるようになる。Jリーグも間違いなく、グローバリズムの中に組み込まれて久しいわけで、そうした中での国際部の必要性が高まっていったことは容易に想像できる。
 
 本稿は前後半の2回に分けて、国際部リーダーの山下修作さん、そして遠藤渉さんと小山恵さんの3人にお話を伺う。日々、国外の空気や熱を肌で感じている彼らから見て、アジア(あるいは世界)におけるJリーグの位置づけとはどのように変化しているのであろうか。さっそくインタビューをスタートさせることにしたい。(取材日:2015年9月25日)

アジア戦略室から国際部へ

──今日はよろしくお願いします。まずはリーダーの山下さんに「国際部とはどんな部署なのか」について解説していただきましょう。国際部の前身は、アジア戦略室だったわけですよね?

山下 そうです。アジア戦略室というのは12年1月から始まって、Jリーグがアジアの中でこうやっていけば成長するよね、みたいな道筋はある程度は見えてきました。そこで次の成長というものを考えると、アジアにとどまらずに、さらに視野を広げて施策を考える必要性というものを考えて、今年の4月から国際部となりました。

──国際部の部員は現在、何人ですか?

小山 専任は山下と私の2人です。それとここにいる遠藤と、今日はいませんがアシスタントチーフの大矢(丈之)が事業部との兼任で、合わせて4人ですね。

──兼任の遠藤さんは、主にどういったお仕事をされているのでしょうか?

遠藤 主にテレビ関連ですね。国内と国外の両方のテレビの通信のメディアの担当をしています。ちなみに私は事業部が主担当で国際部が副担当、大矢は国際部が主担当、事業部が副担当となっています。

山下 ちなみに大矢は今、AFC(アジアサッカー連盟)派遣マッチコミッショナーの業務でAFCのU−19予選が行われるミャンマーに行っているんですけれど、当人も「単にマッチコミッショナーとして仕事をしてくるだけではなくて、現地で人脈を広げてきます」ということは言っていました。そういった人脈の構築を、機会があるごとに作っていくのは重要だと考えています。

──なるほど。ところでみなさん、国際部になられて今年何カ国くらい行っています?

山下 国の数は覚えていないですねえ。いつだったか、3泊6日4カ国で回ったりもしました(笑)。月2回くらい行っている感じですね。基本はアジアが多くて、タイ、ベトナム、カンボジア、マレーシア、シンガポール、インドネシア。あとは社会貢献活動で、日本で集めたユニホームをブータンやモンゴルに届けに行きましたね。それ以外だと、ゴシアカップという世界最大のユース大会の視察でスウェーデンへ。小山はブラジルに行ったよね?

小山 ブラジルはアカデミーの試合業務で行ってきました。メインは東南アジアですね。あと今年はACLのサポートにも入っていたので、浦和レッズについてオーストラリアや中国や韓国にも行きました。

――遠藤さんはいかがですか?

遠藤 私も今年ACLのサポート要員としてアウェー遠征に帯同していたので中国、韓国に行っていたのと、東南アジアはタイ、ベトナム、インドネシア。あとはメディア関係で香港にも行きましたので6カ国くらいですかね。

アジアで感じる、日本への眼差しの変化

「Jリーグは外国人には行きづらい」と香港のサッカー雑誌をきっかけに気が付いたと話す遠藤さん(中央) 【宇都宮徹壱】

──海外との接点を持つと、見えてくるJリーグの現状というものがあると思うんです。漠然とした質問で恐縮ですが、最近特に外を見て感じることってどの辺ですか?

山下 プラスとマイナスの面があります。マイナスはやはり、ACLで勝てていない、日本代表もアジアカップではベスト8で、東アジアカップでも男子は最下位。そうなると「日本、最近弱いね」とストレートに言われたりします(苦笑)。やっぱりACLで勝たないと、まったく直近の評価はされないですし、代表戦などもよく日本戦を見ているので、そこで勝たないと「日本から学ぶ部分などないんじゃないか」と思われてしまう危機感がありますね。

──まあ、そうでしょうね。逆にプラスの面は?

山下 日本への評価というのは、依然として高いと思っています。育成にしろ、マーケティングにしろ、すごくリスペクトを受けていますね。あとは八百長がないこと、それから百年構想やクラブライセンス制度といった、国内向けに行ってきたことが、海外でも非常に評価されるようになったのは良い傾向だと思います。

小山 先日、タイの観光スポーツ大臣が来日して、お話をする機会があったのですが、「自分たちが現職の間にタイをワールドカップ(W杯)に出場させたい。ついては育成やマーケティングについて、日本から学びたい」ということはおっしゃっていましたね。タイも、今は国内リーグが盛り上がっていて、お金も集まってきているのですが、まだまだ国や特定のスポンサーに偏っている部分がありますから。

──遠藤さん、事業部としての視点からご覧になって、いかがでしょうか。

遠藤 先日、香港に行ってきたんですけれど、たまたま立ち寄ったコンビニにサッカー雑誌が置いてあったので手にとってみたんです。最初のほうにプレミアやブンデスの話があって、中のほうにJリーグの特集ページが入っていたんですよ。アジアではJリーグしか出ていないので、注目されていることを肌で感じました。広東語なので、なんとなくでしか分からないのですが、「Jリーグは素晴らしいけれど、外国人には行きづらい。なぜならコンビニでしかチケットが買えないから」といったことが書かれてありましたね。

──遠藤さん、広東語が読めるんですか!

遠藤 何となくですけれど(笑)。その話を聞いて、Jリーグは海外のファンに対しても、もっと開かれたものであるべきだと痛感しましたね。ようやくですが英語のチケット購入サイトを立ち上げて、今数クラブですが準備ができました。そういったこともきちんとコミュニケーションをとっていかなければなりません。せっかく海外の人がJリーグを観戦したいのに、行きたいのに行きづらいという状態というのはあまりにももったいないですから。

──われわれがヨーロッパで試合を見たいときは、英語の購入サイトで入手できますけれど、逆のことはあまり考えていなかった部分ですね。

山下 海外から購入できるシステムがようやく整ってきましたが、まだ現地に伝わってないですね。FC東京は22言語に対応していますが、そういった情報をどんどん知らせていく必要性は感じています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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