尽きない馬への感謝と五輪での悔しさ 62歳で東京五輪狙う障害馬術・中野善弘

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障害馬術において84年ロス五輪から96年アトランタ五輪まで、4大会連続で出場権を獲得した中野善弘が昨年、2020年東京五輪を目指すために復帰 【スポーツナビ】

 五輪種目である障害馬術において、1984年ロサンゼルス五輪から96年アトランタ五輪まで、4度の出場権を獲得している中野善弘(57歳)。“フォームの神様”と呼ばれ、2005年には国内競技会500勝を達成し、97年以降は日本代表の監督やコーチを歴任している彼が昨年、2020年東京五輪への出場を狙うと発表した。

 世界大会は97年のワールドカップの後に退き、後進の指導や、所属先でもある日本最大級の乗馬クラブクレインの関東圏の事業所を束ねる支社長などに就任し、競技以外でも多忙を極めている。

 それでも東京五輪開催決定を機に再び世界を目指すことを決めた理由、そして競技への思いなどを聞いた。

復帰のきっかけは東京五輪と強い馬との出会い

「良い馬との出会い」が復帰の要因と話す中野。一緒に戦う愛馬・CRNベガスと五輪を目指す 【写真提供:乗馬クラブクレイン】

――昨年、東京五輪を目指すということで現役復帰を決められましたが、ここまでの手ごたえは?

 練習する時間を見つけるのが大変ですが、良い馬と出会い、その馬を生かすためにも、もう一度頑張ろうと思っています。

――競技に専念されていた時期と今ではどれぐらい練習量に差がありますか?

 どれぐらいですかね? やっぱり現役時に比べると50分の1ぐらいですかね(苦笑)。ですので、いかに質を上げるかが大事だと思います。

――会社の職務や後進育成の仕事がある中で、現役復帰を決めたのはなぜですか?

 1つは2020年東京五輪が決まったことですね。それと同時に、タイミングよく若い良い馬と出会えたことです。乗りこなすのは非常に難しいのですが、そういう意味で挑戦したいというところですね。

感謝の気持ちを示すため後進の指導

――20年の東京五輪が1つの要因と話されましたが、中野選手は過去に4度(※)、五輪の出場権を獲得されています。それらの五輪と東京の違いは?

 やはり地元の日本で行われるということで、盛り上がるのではないかと思います。多くの選手もトライしてくると思うので、やりがいはありますね。今のところ、若手選手の強化の仕事が7割入っているのですが、そのすきを見て挑戦できればと思っています。

(※84年ロサンゼルス五輪から96年アトランタ五輪まで出場権を獲得しているが、92年バルセロナ五輪では、大会直前に馬が亡くなり出場はかなわなかった)

――現在は日本代表の監督なども務められていますが、98年の世界選手権以降は、どんなことを目標にし、後進の指導を行っていたのですか?

 選手の時にできなかったことを目標にしていました。五輪でメダルを獲得するとか、世界選手権で10位以内に入るなど、自分ができなかったことを後輩に託し、そこに関わっていきたいと。自分の行ってきたことをみんなに伝え、今までの感謝の気持ちを伝えられたらいいなというのが1つでした。

 また競技を客観的に指導者として見ることで、自分が(馬に)乗った感覚ではなく、それぞれの人の感覚や力加減を見ながら直し、結果を出させるようになったことは、一つの勉強になりました。

――以前、日本馬術連盟の方から、世界で勝つためには、日本国内だけで選手を育てるのは難しいという話を聞いたことがあります。強化に携わる中で、課題だったことは何でしょうか?

 われわれが海外に行き、指導の内容や教え方を勉強しても、それをそのまま日本人に当てはめるのは難しかったです。力加減が違うし、体型も違います。ですので、アレンジして分かりやすいように伝えることが必要でした。

 教える側もマンネリしてしまって、自分の考えだけを押し付けていてはだめで、絶えず自分たちも勉強しないと、世界の中で遅れてしまうという課題はありました。

――『世界から遅れる』という実感はありましたか?

 ありましたね。昨年の世界選手権にも行きましたが、やはり日本も進歩していますが、かなりのスピードで海外も進んでいます。その辺りで焦りがありました。

馬の鼓動が足に伝わったロス五輪

4度の五輪出場権を獲得している中野だが、東京五輪へのトライは「やりがいがある」と話す 【スポーツナビ】

――他国との一番の違いは?

 経験の度合い、特に大きな試合における経験の度合いですね。馬術では「ファイブスター」という五輪にも匹敵する大きな国際競技会がありますが、それに絶えず海外の選手は出場しています。日本人選手も海外の試合には出ているのですが、大きな大会には世界ランキング上位に入らないと出場できませんので、そういう場の経験度合いが少ないというのがあります。

――海外の大きな大会では会場の雰囲気も違うのですか?

 全然違いますね。先日もカナダで大会がありましたが、約5万人の観客が入ります。日本の野球場と同じぐらいですし、賞金も一競技が4日間ありますが、ゴルフと一緒で1000万円から2000万円とスケールが違いますよね。日本では一番大きな大会でも1日に2万人ぐらい入る程度です。

――そのような大きな大会だと、馬のコンディションも変わるのではないでしょうか?

 そういうところはありますね。私が初めて五輪に出た時、乗った馬があまり大きな試合経験のない馬だったのですが、5万人の観客が待つ競技場に入る時に、これは初めての経験だったのですが、馬の心臓は前足の間にあって、その心臓の鼓動が自分の足に「ボンボンボン」と伝わって来ました(笑)。こちらが緊張しているのが馬にも伝わってしまい、大丈夫なのかなと。

――やはり選手も馬も、試合経験が重要になってくると?

 そうですね。ただ、今の日本の若い選手はほとんど海外でやっていますので、レベルは上がっています。完全に海外に住み込んで自分で厩舎を持っている選手、働きながら練習している選手と、私たちの時代とはだいぶ環境は変わっています。
 あとはもう少し選手が海外へ行き試合に出られるようになれば、決して(日本人選手は)不器用ではないので、経験を積んでいけると思います。あとはいかに良い馬と出会えるかですね。

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