ヤクルトの「陰のMVP」中村悠平 野村コーチと二人三脚でつかんだ自信

菊田康彦

投手陣も気づいた“変化”

CSファイナルステージ第3戦、「大きかった」という8回の三振ダブルプレー。流れが巨人に傾きそうなところで中村の活躍が目立った 【写真は共同】

 事前の準備をしっかりして試合に臨むようになったことで、自分の中で確固たる根拠を持ってサインを出せるようになった。そして、その“変化”は確実にピッチャーにも伝わった。投手陣のリーダー、石川雅規は言う。

「今年は自信を持ってやっているなっていうふうに感じます。練習前とか試合前とか、終わった後も野村コーチと野球の勉強をしていますし、誰が見ても今年優勝できたのは中村の成長だと思います。しっかりした意図を持ってるというか、自信を持ってサインを出してくれていますし、彼の成長はデカいんじゃないかと思います」

 高津臣吾投手コーチも「すごく研究熱心で、今年は相手チームのビデオもよく見ている。そういうところで信頼関係ができているし、ピッチャーもキャッチャーを信じて投げられる。やっぱりキャッチャーはそこだと思う。意思疎通というか、ピッチャーはキャッチャーが何を考えてるか分かり、キャッチャーもピッチャーがどう思っているか分かるというのは難しいことなんだけど、それができた時にいいチームができると思う」と、中村の成長をチーム躍進の一因に挙げる。

CS突破がさらなる自信へ

 これまでヤクルトは09、11、12年とCSに3度進出しているが、実は中村は今年が初出場。初めての短期決戦に臨むに当たり、意識したのは「今までどおり」にやること。ランナーを出してもホームにかえさない。たとえ点を取られたとしても、粘り強く次の点をやらない──。シーズンを通して意識してきたことを、このCSファイナルステージでも貫こうとした。

 第1戦は5回に坂本勇人の2ランで逆転された後、6回に2点を追加されたのが致命傷となって黒星スタート。だが、第2戦は先発の小川泰弘が、序盤は再三にわたって先頭打者を塁に出しながらも粘り強いピッチングで得点を与えず、バーネットとの完封リレーで快勝した。

 続く第3戦では両軍無得点の4回2死三塁、打者・村田修一の場面で、中村は先発の館山昌平に徹底してインサイドの球を要求。6球目のフォークが外れてフルカウントになったが、最後は外に逃げるスライダーでレフトへのファウルフライに打ち取った。8回には先頭の代打・井端弘和に対し、秋吉亮がボールを続けてカウント2−0になったところで、タイムをかけてマウンドへ。その直前、7回裏の攻撃は2死から一塁走者がけん制死でチェンジになっており、相手に傾きかけていた流れをなんとか変えたいとの思いからの行動だった。

 結局、井端はフォアボール。しかし、1死一塁でマウンドに上がったオンドルセクが、降りしきる雨を気にしながらも代打レスリー・アンダーソンをフルカウントから空振り三振に切って取ると、スタートを切った一塁走者の立岡宗一郎を、中村が素早い送球で刺した。そのまま2対0で逃げ切り「あの三振ゲッツーは大きかった」と振り返った。

 そして迎えた第4戦。ヤクルトは中盤に2点を返されながらも次の点を与えず、1点のリードを守り切って日本シリーズ進出。「本当に苦しい展開でしたけど、ロースコアで勝ち切れたのは良かった。このクライマックス(シリーズ)を通して、こういった接戦をモノにできたっていうのは、すごく自信になったんじゃないかなと思います」と胸を張る中村に、“師匠”の野村コーチも「しつこさも出てきたし、ここっていうところの押し引きみたいなのはよくできたかな。周りもよう見えてたし、キャッチャーらしくなった」と目を細めた。

 そのCS突破の余韻に浸る間もなく、圧倒的な強さでパ・リーグを制した福岡ソフトバンクとの日本シリーズが、今週末には幕を開ける。「総合力では最強と言うにふさわしいチーム。チーム力で勝負したい」という中村の戦いは、日本一の栄冠を勝ち取るまで終わらない。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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