ホンダ“サイズゼロ”に未来はあるか 元フェラーリ浜島裕英が今季戦いを解説

田口浩次

フェラーリ、レッドブルも苦戦した熱害

マクラーレン・ホンダは高速サーキットで苦しい。イタリアGP(写真)では簡単に抜かれる場面が目立った 【Getty Images】

――話題をホンダのパワーユニットに移しましょう。モナコGPやハンガリーGP、シンガポールGPでは戦えていた気がしますが、それ以外で苦しいのはなぜでしょうか?

 現在のマクラーレン・ホンダは、パワーユニットの充電量が十分に確保でき、放電量より少ないサーキットではなんとか戦えるけど、充電量が不足気味なサーキットでは勝負できていない印象があります。実はこれ、昨年のフェラーリも苦しんだことなんです。1周する間に充電した電力がなくなって、途中でバッテリー切れになっている。つまり、電力の出し入れ、回生して電力を取り入れる量よりも放出する電力量の方が大きい。モナコのような市街地サーキットだと、放出量が小さいし燃費も問題ないから戦えるけど、放出量が大きなパーマネントサーキット(常設サーキット)では勝負になりません。

――イタリアGPでは、クラスが違うのかと思うくらいに遅かったです。

 立ち上がりで引き離され、ストレートで伸びないからですね。ジェンソン・バトンも言ってましたが、「あり得ないところで抜かれる」と。普通ストレート全開のときはなかなか抜けません。それがマクラーレン・ホンダは簡単に抜かれていく。ドライバーはビックリしますよね。

――当然ホンダもパワーユニットを改良してきていますが、なかなかライバルたちに追いつけません。

 故障が多いのが気になりますね。FP1やFP2でも故障するし、レースも完走できないから、結果、蓄積したいデータが得られない。悪循環に陥っていると思います。もしパワーユニット側として、“サイズゼロ”のマシンが無理ならば、それをチームに進言して、変更を求めるのもひとつの手だと思います。熱害は本当に大変なんです。昨年はフェラーリもすごく苦しみました。電気系統はもちろんですが、モーターにしても電池にしても、どちらかと言えば冷まして使うものですからね。そういう面で、よほど画期的な冷却システムを構築できない限り、あのサイズゼロコンセプトを貫くことは大変ではないかと思います。

 昨年のレッドブルもエイドリアン・ニューウェイのマシンがサイズゼロのコンセプトに近かったと思いますが、冬の間は全然動きませんでした。同じユニットを使っていたトロロッソは、連続走行は難しかったけど、少なくとも走ることはできました。レッドブルの問題は熱害だったと思います。

ホンダは画期的な冷却方法を見つけた?

ホンダPU“サイズゼロ”は熱害対策が難しい。画期的な冷却方法が見つかればいいのだが…… 【Getty Images】

――電気系統の熱害は、私たちの実生活でも普通にありますね。熱くなったスマートフォンが操作を受け付けなくなったり、WiFiルーターを直射日光が当たる場所に置いておくと、突然WiFiがつながらなくなったり、それこそパソコンの熱暴走なんて話もあります。

 F1でもまったく一緒なんです。冷やしたら突然復活して何事もなかったように動き出すんです。だから、ホンダがサイズゼロを貫くのは、もしかしたら来年に向けて、画期的な冷却方法をすでに見つけているのかなと。もしそれがあるならば、来年は絶対すごいですよ。でも、今年のフェラーリも一度細いボディカウルを投入したけれど、元に戻しました。どのチームにとっても熱害は大変なんです、今の技術では。

――昨年も今年も、各チームのマシンのボディカウルが、毎戦のように少し変更されていたのは、熱害が問題だったのでしょうか?

 そうでしょうね。今年もフェラーリは本当によく変更していました。エアロダイナミクス(空気力学)担当が最も嫌がることを、各チームはやっています(笑)。つまり、それだけ熱害対策が現在のパワーユニットにおいては重要で、パワーユニットを正常に作動させるためにも冷却を確保しなければいけないのです。

次回は9月25日(金)掲載予定です。

浜島裕英(はましま・ひろひで)プロフィール

東京都出身、東京農工大学大学院工学研究科修了。1977年にブリヂストン入社後、長年モータースポーツ用タイヤの開発を担当。ブリヂストンがF1に参戦した97〜2010年まで、F1総指揮を務めた。その後、定年前の59歳にしてブリヂストンを退社し、12年1月にフェラーリと契約。ビークル&タイヤ・インタラクション・ディベロップ・ディレクターに就任し、14年まで活躍した。

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