偶然ではなかったラグビー史に残る奇跡 エディージャパンの物語は続く

斉藤健仁

南アフリカの弱点を突いたアタック

試合前の練習を終え、仲間の肩に手を置いてロッカールームに戻る日本代表 【斉藤健仁】

 また攻撃面では、SO小野、CTB立川の2人のコンビが機能し、立川がこの試合で最多となる14回ボールを保持し、ゲインを繰り返して、リズムを作った。日本代表は、CTBジャン・ディヴィリアスらが前に上がって来て外への展開を遮断する「アンブレラディフェンス」をしかけてくるため、タックルがあまり強くない南アフリカ代表SOパット・ランビーとハンドレ・ポラードを狙う作戦を取った。

「一発、相手の10番(ランビー)にハル(立川)を当てたとき、ゲインラインが切れたので、もっとやろうと思いました。ハルのボールキャリアとしての勢いと姿勢が良かった」と小野が言えば、立川も「本来はもっと外側に振りたかったが、パスカットにはまらないように、ディヴィリアスの内側でゲインラインを切れるようにランをした」と冷静に振り返った。

 実は、立川のランがSOの近場で機能したことが、後半28分のFB五郎丸のトライを生む。ラインアウトからCTB立川がランをしたが、「何回もランをしていたので、ディヴィリアスが(タックルに備えて)止まってくれたので、うまくパスができた」。その裏をSO小野が走り、立川からパスを受け取り、小野がその内側に走り込んできたWTB松島幸太朗(サントリー)にパス。松島は相手のギャップにきれいに走り込んでラインブレイクし、最後はFB五郎丸へパスした、というわけだ。「練習では7割くらいの出来のサインプレーでしたが完璧でしたね! BKでトライが取れましたが、ラインアウトをFWが取ってくれたので全員のトライですね」(小野)

随所に見られた「賢いプレー」

試合後にエディー・ジョーンズHC(手前)と抱き合うリーチ マイケル主将 【斉藤健仁】

 前半30分、リーチがモールからトライを挙げたが、モールを組むときに核となる選手をショートパスをしてずらして組む形は、ほとんど見たことがなかった。また後半12分、イングランドに来てから練習を重ねてきたサインプレーで、相手の反則を誘ってPGにつながった。またキックオフも、相手にモールを組ませないようにゴロで蹴るなど「賢いプレー」が随所に見られた。

 春から指揮官は、この日をターゲットに、分析し、練習メニューを組み立てて選手たちに落とし込んでいた。選手たちは見事に選手はその期待に応えてワールドカップという大舞台で実行して見せた。イングランドに来てから「日本もラグビーができる国で、リスペクトを受けたい」とジョーンズHCは繰り返していたが、コーチと選手が一丸となって勝利という最高の形で、それを証明して見せた。

「日本ラグビーの歴史はまだ完全に変わっていない」

五郎丸(左)らが観客の声援に応える 【斉藤健仁】

 ジョーンズHCは「ブライトンでの勝利は最高でした。日本代表の24年ぶりの勝利がこんなビッグゲームとは。歴史が一つ塗り替えられました。4年後の(日本開催の)ワールドカップにつながります」と言うものの、決して心から破顔しているように見えなかった。それは中3日の9月23日にスコットランド代表戦を控えており、ジョーンズHCらしく、こうコメントした。

「最初から決まっていたスケジュールで、それに向けてコンディションも調整、トレーニングをしてきました。それに、日本は高校や大学で連日試合をするとも通常なので、3日も空いていれば休養は十分です。良いリズムです。1週間後だったら、かえって調子が狂ってしまうかもしれません(苦笑)。今日は『ベストラグビーの国』に勝利したのですから、余韻に少し浸りますが、明日からは残りの3試合に集中します」

 選手もそれは十分に承知しており、リーチ主将は「もちろんうれしいけど、残り試合もある。切り替えてスコットランド代表戦に向けて良い準備をしないといけない」と次戦に向けて気持ちを切り替えてきた。

 ジョーンズHCは最後に言い切った。「日本のラグビーの歴史はまだ完全に変わっていない。準々決勝に進まなければ、この勝利が無駄になってしまう」

 確かに、日本ラグビーだけでなく、世界のラグビー歴史を変えた。だが物語は終わっていない。エディー・ジャパンの英雄譚はまだ始まったばかりだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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