阪神優勝へ、鳥谷は身を粉にする覚悟 痛みを口にせず戦い続けるキャプテン
語る必要性を感じなかった背中の痛み
10年ぶり優勝へチームを引っ張る鳥谷。今季も痛みをこらえながら連続試合出場を続けている 【写真=BBM】
体をよじらせ、端正なルックスを大きくゆがませた。鳥谷にして、鉄仮面の下に痛みを隠し切れなかった。6月21日の東京ヤクルト戦(甲子園)の6回、左腕・久古健太郎の抜け球に背中をえぐられた。あの瞬間からもう、2カ月以上が過ぎた。虎のキャプテンは当たり前のように9回裏までグラウンドに立ち続けている。
「自分からは何も言うことはない。聞かれて答えるつもりもない。出ている以上は、体が完璧な状態の人と同じなわけだから」
6月28日の横浜DeNA戦(甲子園)で5年ぶりに7番まで打順を落とし、和田豊監督が明かしたことで発覚した背中の痛み。既成事実となってもなお、鳥谷は公の場で負傷の詳細を一切語らなかった。
語る必要性を感じなかったからだ。満身創痍(そうい)の状態で懸命にプレーを続ける――。分かりやすい美談に仕立て上げられる流れを良しとしない。勝利に貢献できるなら出る。それだけだ。
積極的に後輩にアドバイス
「学校を1日休んだら、次は頑張らなきゃ行く気になれないでしょ? 試合だって1回でも休むと、どういう気持ちになるのか……。みんなと一緒だって」
今季開幕前、「登校」を例に挙げて冗談めかした。1587試合連続出場の数字は、現時点で衣笠祥雄(元広島)の2215試合、金本知憲(元広島、阪神)の1766試合に次いでプロ野球史上3位。ケガを抱えながら試合に出続けることは鳥谷にとって、特別なことではない。
数年前には腰を骨折しながらプレーし続けたこともある。「毎年、1度は『これはヤバい!』というケガはあるから」。今季は4月にも右脇腹を負傷しているが、1イニングも休養を取っていない。かつての鉄人・金本のように、その背中だけでチームを鼓舞できる希有(けう)な存在だ。
さらに今季は例年に増して、積極的に後輩へアドバイスを送っている。タイミングを見つけて、二塁手・上本博紀にハンドリングや足さばきについて助言。打撃不振に苦しむ大和に具体的な金言を授けたこともある。
「お前は足というより、手でタイミングを取るタイプだと思う。バットを構えるとき、手を止めない方がいいんじゃないかな?」
その後、大和はゆらゆらとバットを揺らし、タイミングを取るフォームに戻して状態を上げていった。もちろん、2人だけではない。あらゆる後輩たちにさりげなく技術、理論、メンタルを惜しみなく伝える姿が目立つ。その一挙手一投足に、10年ぶりのV奪回に懸ける思いがにじみ出る。