V8王者・山中がバンタム級頂上決戦へ=9月のボクシング見どころ

船橋真二郎

世界王座12度防衛のモレノと対戦

WBC世界バンタム級王者・山中慎介が最強挑戦者アンセルモ・モレノを迎えて9度目の防衛戦。“神の左”を難攻不落のモレノに炸裂させるか!? 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 バンタム級の頂上対決が9月22日、東京・大田区総合体育館で行われる。WBC世界バンタム級王者の山中慎介(帝拳/23勝17KO2分)が挑戦者に迎えるのは同級3位のアンセルモ・モレノ(パナマ/35勝12KO3敗1分)。かつてはWBA王座を12連続防衛し、階級ナンバーワンと称されたこともある強豪だ。山中にとっては待望のビッグマッチ。7月の発表会見で山中は「モレノはバンタム級の1番、2番を争う選手。そんな選手とやれるのは本当に幸せ。統一戦ではないけど、自分の中では統一戦と同じ気持ち」と、いつもと変わらず表情はクールながら素直に気持ちの高ぶりを表現した。

 山中と同じサウスポーのモレノは一言で言えば、やりづらい選手。思いきり半身に構えて懐の深さをつくり、上体の柔らかさとステップワークでパンチをかわす。対戦相手の良さを発揮させないうまさが特長だ。まず打たせないことが前提にあるモレノの攻めはリアクションが主体。相手のパンチをかわして、打ち終わりを狙う。当て勘も良く、嫌な角度から放たれるアッパーは脅威だが、決して深追いはせず、クリンチも駆使して、相手の攻め手を封じる。「強いというよりはやりにくいという言い方が正しい。正直、空回りさせられるのではないか、という不安もある」と山中は警戒する。

攻撃力の山中vs.難攻不落のモレノ

 現在8連続防衛中とキャリアの絶頂にあると言っていい山中に対し、モレノは昨年9月、6年以上にわたって君臨した王座から不運な6回負傷判定負けで陥落した。以来、丸1年ぶりの再起戦となる点はモレノの不安材料だが、まだ30歳と32歳の山中より若い。12年11月には2階級制覇を狙って、アブネル・マレス(メキシコ)のWBC世界スーパーバンタム級王座に挑むも失敗している。再び巡ってきたWBCの緑のベルトを巻くチャンスは大いにモレノを奮い立たせるに違いない。「リスクのある相手だが、自信がなければやりたいとは言わない」という山中の言葉は、そっくりそのままモレノの思いでもあるはずだ。

 最悪のシナリオは、なかなかパンチが当たらないことで手が出せなくなり、ずるずるラウンドを重ねること。ガードの上からだろうと身体の一部分だろうと構わずパンチを出し続けて強打を印象づけ、心理面で揺さぶりをかけるのも有効だろう。「今まで以上に右、フェイントを使って、間合いや角度を変えた攻めを考えないといけない」と大和心トレーナー。出し惜しみせずに次から次と引き出しを開けなければならない難敵だけに、これまでにない山中の全貌が明らかにされるかもしれない、という楽しみもある。「まずはしっかりと結果を出すことに集中するが、KOは意識している。最後は左で決められれば」と“ゴッド・レフト(神の左)”は意気込む。一級のディフェンス力を備える難攻不落のモレノを一級の攻撃力を備える山中が攻め落とせるか。見どころはその一点に絞られる。

7連続KOの尾川が山中の前座

 山中と同じリングでは7連続KO勝利で急上昇中の日本スーパーフェザー級5位・尾川堅一(帝拳/15勝13KO1敗)がWBC14位にランクされるデイビ・フリオ・バッサ(コロンビア)に挑む。バッサは34歳ながら17戦全勝(10KO)のサウスポー。尾川にとって試金石の一戦となる。この階級では国内随一の強打を誇る尾川が激戦のスーパーフェザー級で存在感を示し、日本王者の内藤律樹(E&Jカシアス)、東洋太平洋王者の伊藤雅雪(伴流)への挑戦に歩を進めることができるか。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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