国内激戦の走高跳も、高かった世界の壁 日本陸上界に求められる情報戦略の見直し

折山淑美

跳躍競技にとって好条件なスタジアム

国内の争いも激しかった男子走高跳。しかし世界も同様にレベルが上がっていた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 世界選手権(中国・北京)の参加標準記録(2メートル28)を突破した4名が、6月の日本選手権で代表権を争い、3名が代表になるというレベルの高い接戦が繰り広げられた今季の男子走高跳。メーンスタジアムとなる“鳥の巣”でも、その勢いが結果につながることが期待された。

 だがその反面、厳しい戦いであることも予想されていた。今季のシーズンベストを見れば、出場選手41名中2メートル32を超えている選手は15名で、2メートル30までとなると23名。それに加えて大会初日の男子棒高跳予選では、16名が予選通過記録の5メートル70を跳んで決勝進出を果たすという事態。それは、周囲をスッポリと囲まれた競技場内が、風もほとんど吹かず、跳躍競技にとっては極めて安定した好条件での戦いだったからだ。

 大会7日目となる8月28日の男子走高跳予選も、微風が吹く好条件の中で行われた。

 予選通過記録は2メートル31だが、その前の高さの2メートル29をクリアして通過記録に挑戦したのは17名。結局、通過ラインをクリアした選手は9名に止まり、それまでの失敗試技数ゼロで2メートル29を跳んだ選手が、予選10位となり決勝進出を決めた。決勝進出者は14名になり、予想通りのハイレベルな大接戦となったのだ。

日本勢は決勝の争いに加われず

「大会の雰囲気に怖じ気づいていた自分がいた」と話す平松。初の世界選手権は2m17という記録で終わった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 その戦いに日本勢は割り込むことができなかった。「大会の雰囲気に怖じ気づいていた自分がいて、気持ちの部分でやられてしまった。2メートル22の3回目もこれまでで一番浮いたので『跳べた』と思ったけど、足で引っかけてしまった。踏み切り位置が近くなっていたのが原因だと思う」と話す平松祐司(筑波大)は、最初の2メートル17を一発で成功した後、2メートル22を3回落として失敗してしまった。

 また「2メートル22まではいつでも跳べる自信はあったけど、2メートル26になると『どうかな?』というのがあるので、それで少し心理的に動揺したのかもしれない。2メートル29は絶対に跳ばなくてはいけないと思っていたし、26で少しつまづいても修正して万全の状態で29を迎えられればいいと思っていたけど、そこまでいけなかったのがすごく悔しい」と話す衛藤昴(AGF)は、2メートル22までは一発でクリアしたが、2メートル26を跳べずに敗退した。

 そんな中、唯一2メートル29へ挑戦したのが、2メートル22は3回目、2メートル26は2回目でクリアと不安定な跳躍をしていた戸邉直人(つくばツインピークス)だった。

 失敗試技の数で、2メートル29に挑戦した時の順位は25位。29をクリアしても、順位では12位以内に入らないため、決勝進出には2メートル31をクリアするしかないところまで追い込まれていた。

 だが戸邉は公式練習で踏み切った瞬間に腰を痛め、「2メートル22は痛みを感じないでやれるか様子を見ながら跳んでいた」という状態だった。「2メートル26を跳んだ時は踏み切りで潰れているような状態だったので、そこが入れば腰の痛みはあっても2メートル29や31は跳べるかなという感じではいました」という。

 結局29をクリアできずに敗退したが「決勝へいった選手たちを見ても、昨シーズンは互角に戦えていた選手たちなので、実力的に大きな差があるというより調整力の問題。最後のところで差をつけられたという感じなので、現状にはそれほど悲観していない」と話す。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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