亡き父の思いを胸に――マラソン前田彩里 高い潜在能力と強い気持ちで世界に挑む

河合麗子

8年ぶりの2時間22分台

2度目のマラソンで世界選手権代表の座をつかんだ前田彩里 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 陸上の世界選手権(中国・北京)の戦いも、いよいよ終盤に近づいてきた。最終日となる30日に行われるのが、女子マラソン決勝(8時30分号砲)だ。

 日本人選手の中で、特に注目されるのが、2度目のマラソン挑戦で代表の座をつかんだ23歳の新星、前田彩里(ダイハツ)だろう。

 前田は、佛教大学4年時に初めて挑んだ大阪国際女子マラソン(14年1月)で、2時間26分46秒の日本学生記録で4位入賞(日本人2位)を果たすと、今年3月の名古屋ウィメンズマラソンでは、日本歴代8位となる2時間22分48秒で日本人トップの3位に入った。

 日本人女子の2時間23分切りは、野口みずき(シスメックス)が07年11月に記録して以来、実に8年ぶりの快挙。しかもそれは15キロ付近で転倒し、手首を骨折するというアクシデントの中での記録だった。ゴール後「転んじゃった」と笑顔で振り返る可愛らしさも相まって、前田は一躍、女子マラソン界のニューヒロインとなった。

指導者たちが絶賛する潜在能力

8年ぶりの2時間23分台切りとなったが、その潜在能力は彼女を指導してきたコーチらが絶賛する 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 前田を指導してきた監督たちはその潜在能力を口々に評価する。

 ダイハツの林清司監督は、当初、学生新を記録した大阪での走りは、「運がよかった」だけだと考えていたという。たまたま良い選手が5キロごとに前田の前にいて、前を見ながら追い越していくレース展開だった。

 しかしその思いは、彼女がダイハツに入社してすぐに覆された。社会人になって本格的にマラソン練習に取り組むようになった彼女が、初めて40キロ走に挑戦したときのことを、林監督はこう振り返る。

「それほど簡単に40キロ走はすっと走れるものではないんですよ。通常は35キロからペースダウンしてしまう選手がほとんどです。しかし彼女の場合は、そういうことをまったく感じさせなかった。私は自転車でついて見ているんだけど、動きが変わらない。いろいろな選手と比較する中で、絶対に失速せずにきっちりあげて練習をこなせる選手だと感じました。2時間走でもほとんど給水なしで走り切れてしまうんじゃないかな」

 前田にその時のことを聞くと、「最初は不安もあったんですけど、意外に走れました。『あっ、こんなもんか』って思いました」と淡々と語っている。

 林監督は特に後半の持久力について彼女の能力を絶賛し、最後にこう締めた。

「日本記録であったり、(16年の)リオ五輪だったり、(20年の)東京五輪だったり、それは必ず目指さなければいけない選手です」

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

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