キャシー・リードと弟クリスの特別な絆 日本のアイスダンスを発展させるために

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キャシーとクリスはアイスダンスを始めたときからパートナーとして、常に喜びや悲しみを共有してきた 【写真は共同】

 キャシー・リードにとって、弟のクリス・リード(木下クラブ)は特別な存在だ。家族というだけではなく、アイスダンスを始めたときからパートナーとして、常に喜びや悲しみを共有してきた。キャシーの現役生活はクリスとともに歩んだ道とも言える。姉の引退後、クリスは村元哉中(木下クラブ)と新たにカップルを組み、五輪出場を目指すという。そんな弟をキャシーは「100パーセント応援しています。クリスのスケーティングはすごく美しいですし、彼のパフォーマンスが今から楽しみ」と温かい目で見守っている。
 キャシーは今後、コーチや振付師として活動していこうと考えている。その根底にあるのはアイスダンスを日本でもっと広めたいという思いだ。お世辞にも日本は環境が優れているとは言えず、その裾野はまだまだ狭い。トップランナーとして活躍してきた彼女だからこそ、痛感してきたこともあるのだろう。クリスや村元とともに、日本のアイスダンス界に貢献していきたいという気持ちが溢れていた。

哉中はすごく良いスケーター

キャシーの引退後、クリスは村元哉中(右から2番目)とパートナーになった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――弟のクリス選手は村元選手とカップルを組むことになりましたね。

 昨年の全日本選手権の前に、哉中が前のパートナーと滑っているのを見ました。素晴らしい演技だったので驚いたんです。存在感も個性もあるし、すごく力強い。もし自分が引退するとしたら、クリスの次のパートナーになれるのは彼女しかいないと思っていました。ですから、トライアウトのときにクリスに「あなたのスケーティングだから、自分の好きなように決めていい。でも、哉中はすごく良いスケーターよ」と言いました。今、2人は非常に良いスケーティングをしていますし、私もすごく楽しみです。

――引退することを伝えたとき、クリス選手や家族はどんな反応でしたか?

 クリスはちょっとびっくりしていましたし、寂しがってもいました。母と私はすごく近い存在です。世界選手権の前にはもう私が考えていることを分かっていて、ショートダンス(SD)の後に「引退したい」と伝えたらすぐに理解してくれました。寂しがっていましたけどね。家族は全力でサポートしてくれていました。私は自分だけでなく、みんながベストでいてほしいと思っています。クリスが次の五輪を目指して現役続行する意志があって、そのためには新しいパートナーを見つけ、練習を積まなければいけません。だからこの引退は正しい決断だったと思っています。

――クリス選手と村元選手が組むことによって、具体的にどんな効果が生まれると思いますか?

 2人のスケーティングを見ましたが、クリスは別人みたいです。姉ではなく違う女性と滑っていますから、クリスはより男性らしく、大人っぽく見えますね。今、彼らは愛や男女の出会いといったテーマに取り組んでいます。そういったストーリーは私たちがカップルだったときはやったことがありませんでした。私たちは姉弟ですから。でも、彼は今、自由に探求できます。すごく楽しみですし、彼らは今の現役の日本のアイスダンスチームと一緒に、日本のアイスダンスを一つ上のレベルに引き上げてくれると思います。

――姉弟カップルのメリットとデメリットはどんなところにあるのでしょうか?

 デメリットはけんかをしてしまうことですね。お互いよく知っているので、相手を怒らせることも簡単です。でも、私たちは共に育ち、お互いが大好きですし、強い絆で結ばれています。それは通常の男女ペアとは違うと思います。良いところも悪いところもありますけど、後悔はしていません。2人で素晴らしいキャリアを築くことができたと思います。

クリスほど強い人間はいない

――クリス選手がけがをしているとき、ご自身の調子が良いときもあったのではないかと思います。もどかしさもあったと思いますが、どう折り合いをつけていたのですか?

 本当に難しかったです。私はいつも練習したいけどできず、毎日1人で滑っていました。でも、クリスはいたりいなかったり……。クリスも「練習したい!」と言っていましたが、できなくてとても大変でした。試合に向けてたくさん練習ができず、いつも緊張していました。うまくできるかどうか分からなかったですしね。ただ、そのおかげで私もクリスも精神的に強くなったと思います。大変な時期にどう生きるかを学びました。

 人生は決して完璧ではなく、遠回りして、より良い道を見つけ、何が起こるかを見ながら生きるものです。(2011年の)NHK杯でのアクシデントは不運でしたが、起こってしまったことですし、その中でベストを尽くすだけです。今はクリスの膝もずいぶん良くなりました。この先数年、彼がこのまま良いコンディションでい続けてくれたらと思います。

――姉としては「もう無理しなくていいよ」といった感じだったのですか?

 もちろんそうです。とても心配していました。でも、気丈に振舞うようにして「心配しないで集中して。体の別の部分が膝をサポートしてくれる。そんなにストレスに思うようなことはしないでね」と伝えていました。クリスほど強い人間はいないと思います。4回も膝の手術して、それでもスケートを続けているなんて本当にすごいアスリートです。

弟のことを「クリスほど強い人間はいない。本当にすごいアスリート」と語るキャシー 【スポーツナビ】

――個人的な意見で失礼だとは思うのですが、正直なところ先に引退するのはクリス選手だと思っていました。けがのこともありましたし……。

 みんなもそうだし、実は私もそう思っていました(笑)。

――クリス選手が現役を続けることをどう思いますか?

 本当にハッピーです。彼を100パーセント応援しています。クリスが現役を続けるかどうかは(事前に)分からなかったので、彼の決断を尊重しています。クリスのスケーティングはすごく美しいですし、彼のパフォーマンスが今から楽しみです。

――クリス選手が他の選手とペアを組むことに対して複雑な思いはありませんか?

 すごく変な気持ちです。でも、私は哉中のことが大好きだし、彼女は本当に素敵な女性です。彼女の家族もとても温かくサポートしてくれています。2人はピッタリだと思います。しかもクリスは年長になり、哉中は若く、私より背も低いので、とても面白いリフトや動きができると思います。日本に戻ってきたとき彼女の母親が2人を手伝っていたのですが、本当に素敵なご家族だと思いました。

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