“ラガーさん”が選ぶ夏の甲子園名勝負 スタンドで感じた高校野球の魅力

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07年夏の決勝、佐賀北は副島の逆転満塁弾で広陵を下し、全国制覇を果たした 【写真は共同】

 春と夏、1年に2回球児たちが集う甲子園。そのテレビ中継のバックネット裏にひと際目立つラガーシャツの男性のことを知っているだろうか。いつしか、“ラガーさん”と呼ばれるようになった東京の自営業、善養寺隆一さんは、1999年のセンバツから全試合同じ席で観戦し続けている。まだ肌寒さの残る春も、暑さ厳しい夏も彼は、球児たちに熱い視線を送り続けている。彼が見つめてきた幾多の試合の中で心に残る試合はどの試合なのだろうか? 今回はラガーさんが選ぶ夏の甲子園名勝負5選を語ってもらった。毎年、全試合がテレビ、ラジオで全国中継されているが、果たしてスタンドから見た試合はどのように映ったのだろうか?(文中敬称略)

甲子園の観衆が平等に応援することはない

――ラガーさんが初めて甲子園で高校野球を観戦したのは?

 今、巨人で監督をやっている原(辰徳)の東海大相模(神奈川)の最後の夏の試合。相手は小山(栃木)でしたね。その次に行ったのがPL学園(大阪)の桑田(真澄)と清原(和博)が3年のセンバツでした。この時、初めて通し券で観戦したので、強烈なインパクトとして残っていますね。

 連続試合観戦を始めた99年の春は沖縄尚学が沖縄県勢として初めて優勝した時。今は監督をやっている比嘉公也がエースとして活躍でしたね。

――これまで1300試合以上を観戦しているラガーさんにとって、印象に残るのはどういった試合ですか?

 やっぱり夏の決勝戦が好きなんです。3年生の最後の総仕上げじゃないですか。春は「負けても夏がある」と思っちゃいますので、夏の決勝戦は自分も特別な思いで見てしまいます。

――それでは、ラガーさんが観戦した試合をランキング形式で教えてください。まず5位の試合は?

 07年夏の決勝、佐賀北(佐賀)と広陵(広島)の試合。佐賀北が副島(浩史)の逆転満塁ホームランで優勝した試合です。確かこの年は野球留学、特待生の問題が明るみになった年でしたね。佐賀北は開幕戦から出ましたが、ノーマークで実力的には49校中、48番目、47番目と思っていましたね。

――実際に両校を見た印象は?

 佐賀北は神懸かっていて、勢いがありましたね。2回戦で宇治山田商(三重)と延長15回引き分け、再試合もやっていますが、試合をするたびに勢いに乗った感じでした。また勝った、また勝った、という感じで試合が終わったら不思議と勝っている感じでした。
 一方の広陵は、あの時は野村祐輔(現・広島)と小林誠司(現・巨人)のバッテリーを中心にしたチームでしたね。1回戦では3年連続で決勝に進出していた駒大苫小牧(南北海道)と対戦して、8回まで負けていたのを追いついて、逆転勝ちしているんです。そこから勢いがつきましたね。試合前は当然、広陵有利、佐賀北がどのくらい頑張れるか、という感じであろうと見ていました。

――その通り、広陵が先制して7回を終えて4対0とリード、このまま行けるかな? という感じでしたね。
 
 でも審判が演出しちゃいましたね。近くで見ていたので分かりますが、少なくとも5球はストライクの球をボールと判定されていました。やはり観客が審判の判定を狂わせる雰囲気を出していたんでしょう。審判も人間。空気を感じちゃったんでしょう。広陵の中井哲之監督が審判を批判したことで注意を受けましたが、気持ちは分かります。

 残酷ですけど、甲子園の観衆は両方を平等に応援することはありません。どうしても5万の大観衆はどっちかの応援に偏って、どっちかは悪役になります。それを象徴するのがこの試合ですね。

投手戦よりも打撃戦

――第4位は?
 
 04年夏の駒大苫小牧と済美(愛媛)の決勝戦です。済美はこの年、福井優也(現・広島)を中心にセンバツで優勝しています。ただ、あの試合は福井の球もあまり伸びてなくて、駒大苫小牧は1対5とリードされたものの、後半に打線が爆発、済美も追い上げたけど、結局は13対10で駒大苫小牧が勝つ、という大味な試合ですね。

 投手戦も好きなんですが、やはり打撃戦は見ていて興奮します。8対7が一番面白い試合、と言いますが、この試合はそれを超えていますね。とにかく駒大苫小牧の執念を感じた試合です。

――印象に残っている選手はいますか?

 セカンドを守っていた当時2年生の林裕也(現・東芝)ですね。横浜の涌井秀章(現・千葉ロッテ)からサイクルヒットも打っていますね。上背もありましたし、次の年はキャプテンにもなって、キャプテンシーを発揮していました。まだ田中将大は1年生でベンチにも入っていなかったんですよ。
   
――第3位は?

 96年夏の松山商と熊本工の試合、いわゆる“奇跡のバックホーム”の試合ですね。全試合観戦を始める3年前ですが、半分は見ていましたね。3対3の同点で迎えた延長10回裏、1死満塁からライトへのフライをストライク返球で併殺でしたね。

――当時はどの席で見ていたんですか?

 当時は甲子園がリニューアル前だったので、バックネット裏の左打者のやや後ろの席で見ていましたが、外野フライが上がった瞬間“サヨナラで終わったな”と思いました。ただ、ライトの矢野勝嗣が山なりの返球を投げた瞬間に「あれ、ひょっとして?」という感じで、その送球が自分の目の前を横切って、捕手のミットにバシッと入った瞬間にアウト。何が起きたのか、というよりもあ然とした感じ、少し間を置いて球場中が「うぉー」というどよめき、大歓声に包まれましたね。次の回に松山商が3点を勝ち越して、優勝するんですが、スタンドには九州の人もたくさんいて、どちらも名門校。熊本工にも勝たせてあげたい試合でした。

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