女子長距離・鈴木亜由子の歩むべき道 自分で作った“枠”を打ち破るために

折山淑美

脚の不安を抱えつつも代表権獲得

6月の日本選手権では脚の不安を抱えての出場となった鈴木亜由子。それでも3位に入り、8月の世界選手権代表の座をつかんだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 6月の日本選手権(新潟・デンカビッグスワンスタジアム)女子5000メートル、鈴木亜由子(日本郵政グループ)は、1月の全国都道府県対抗女子駅伝の9区を走って以来のレースだったが、大会直前合宿の後半で脚に痛みが出てしまい、不安を抱える状態だった。それでも、世界選手権(8月22日開幕、中国・北京)の選考条件となる参加標準記録(15分20秒00)を昨年10月の全日本実業団で破っており(15分14秒96)、そのチャンスを生かすためにもと、粘りの走りで3位に入り、初の世界選手権代表の座を獲得した。

 鈴木は「本当は優勝して代表になりたかったけど、中盤で思ったより余裕がなくなり、後半も勝負できなかった。ラスト200メートルは脚がまったく動かないのでマズいと思ったけど、最低限の走りはできて次につながりました。悔しさ半分、ホッとしたのが半分でした」と振り返る。

「持ちタイムが一番良かったのでプレッシャーはありました。それに創部2年目になる会社の期待も感じながらでしたから……。でも逆に応援団の数は一番多いと思うので、それを良い意味で力に変えたいなと思って。ホッとはしたけど、これで終わりではなく、ここからがスタートだと思うし、世界選手権ではしっかり走って何かを得て、今後へつなげたいなと思います」

 日本選手権後は2週間ほど練習内容を落として脚の回復に努め、練習ができる状態に戻した。そして7月中旬には、合宿のため米国・ボルダーへと出発した。
「世界選手権では自分の力を出し切ってやっと決勝へ進めるくらいだと思うので、この1カ月でどれだけ頑張って練習をして、ギリギリのところで踏ん張れるかだと思います。予選では多分、外国勢が楽に(予選を)通過したいとスローペースになって、最後に『ヨーイドン』というレースをしたがると思う。ラスト1周勝負になると私は勝てないので、ある程度自分のペースで押していくしかない。合宿ではそれをやれる力をつけなければいけないと思います」。こう言って初の世界選手権へ向けて気持ちを引き締める。

高校時代に2度の疲労骨折

元々、バスケと陸上を平行して行う異色な経歴を持つ。高校も陸上の強い高校ではなく、進学校を選んでいる 【スポーツナビ】

 彼女は中学2年の全日本中学陸上競技選手権で、800メートルと1500メートルで優勝して注目された選手だ。3年では1500メートルで全中連覇を果たし、3000メートルでは中学歴代2位の9分10秒71をマークしている。

 陸上競技は小学校から中学校にかけて豊橋陸上クラブという地元のクラブに入り、頭角を現してきた。その後、高校では陸上の強豪校は選ばず、地元の進学校である時習館高に進んで陸上部に所属した。
「小学校の時は陸上と並行してミニバスケットボールをやっていたし、中学では陸上部がなかったし、バスケットの方が好きだったのでバスケットボール部に入っていたんです。高校でも本当は両立させたかったけど、時間的に制限があったのと、上を目指すとなればバスケはきついかなとも思って陸上を選びました。でも、高校の3年間は足の甲を2回疲労骨折したりで厳しい時期というか、踏ん張る時期だったかなと思います」

 高校卒業後も陸上の強豪校ではなく、名古屋大進学を選んだ。
 強豪校で競技を続けることに不安があり、自分のペースでのびのびとやれる環境の方がいいと考えたからだ。

「高校で大きな故障もしていたので、大学ではしっかり復活したいと思ってやっていました。大学の監督も、先を見据えて無理をさせないという考えでやらせてくれたので、それはすごくありがたかったです」

 名古屋大を選んだ理由の一つには、男子選手と一緒に練習ができるということがあった。集まって練習するのは週3回だけだが、数校が合同でやるために選手は多く、女子の国内トップより少し上のレベルの男子選手がいて、一緒に質の高い練習もできた。そういう中で自立心も育てられ、ポイント練習で合わせていく力も養われたのではないかという。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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