宇野、佳菜子を襲った「意外なワナ」 フィギュアのルール改正が残した影響

野口美恵
 フィギュアスケートの頂上決戦となる世界選手権(中国・上海)が28日に終了した。ソチ五輪後、多くのルールが改正され、選手にとっては変化を求められるシーズンだったと言える。

「2回転は2度まで」の思わぬ落とし穴

NHK杯では村上佳菜子が、ジャンプの規定違反で高得点となるはずの3連続ジャンプが0点に 【Getty Images Sport】

 今季の改正のなかで、地味ながら選手を戸惑わせているのが、「あらゆる2回転ジャンプも2度まで」という規定だ。もともと3回転ジャンプには「重複して跳んでいいのは、2種類2回まで」という通称“ザヤックルール”があるが、新たに2回転も規制されたのだ。

 このルールが導入されたきっかけは、「2回転までしか跳べない選手のなかに、得意の種類の2回転ばかり何本も入れて偏ったプログラムになる人が多い。3回転だけが規制されるのは不平等」という意見があったためだ。つまり2回転ジャンプ級の選手を想定してできた規制だった。

 ところがふたを開けてみると、3回転を跳ぶ選手にとって「意外なワナ」になっていたのだ。
 村上佳菜子(中京大)は11月のNHK杯の女子フリーで、後半に入れた「3回転サルコウ+2回転ループ+2回転ループ」の連続ジャンプで、2回転ループが中盤に跳んだ1回と合計して3回となる規定違反だったために、この連続ジャンプまるごと0点に。約10点を不意に失った村上は、「もう(私は)終わっちゃった」と思わずこぼした。

宇野「あれが0点だったら笑えない」

世界ジュニアで初優勝の宇野はジャンプの規定違反を何とか回避。演技後はほっとした様子だった 【坂本清】

 また今年3月に行われた世界ジュニアでも、金メダルを左右する出来事があった。宇野昌磨(中京大中京高)は、男子フリーで同ルールの存在を分かっていながらも対処できないケースに遭遇し、演技中に戸惑ったのだ。

 宇野は、冒頭の4回転トウループが、2回転半回って降りてしまうというミスをした。これが「2回転」と「3回転のダウングレード」のどちらに判定されたかは、審判団のコンピューターには表示されるものの、選手やコーチ、観客からは試合が終わるまで分からない。宇野は判断に迷った。

 2回転と判定されていれば後半の「3回転フリップからの連続ジャンプ」を「3回転+3回転」にしなければならない。3回転と判定されているなら「3回転+2回転」にしなければならない。

 コーチの樋口美穂子の目でも判断がつかず、リンクサイドから叫んで指示を出すことができない。宇野は「たぶん3回転のダウングレード」と決め、後半のジャンプ構成を考えて跳んだ。

 結果的に、宇野の勘があたり、ジャンプの規定違反はなし。2位のボーヤン・ジン(中国)を2.84点差でかわし、初出場から4年越しの優勝を飾った。
「あのフリップが0点だったら優勝していない。4年かけて優勝を目指して、まさか規定違反なんてあったら、笑えないですよ」

 悲願の優勝にも、笑顔というより、ほっとした様子だった宇野。ヒヤリとさせられる試合だった。

 また、世界選手権でもミハル・ブレジナ(チェコ)やセルゲイ・ボロノフ(ロシア)らトップ選手が同ルールの影響で順位を落とす悲劇があった。

 もちろんこの規定は今季が運用の初年度。さすがに混乱が多いという声も多い。国際スケート連盟関係者によると、緩和の方向性もあるという。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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