柿谷、15分間のデビュー戦は見せ場なし 意欲的な姿勢に好印象も連携に課題を残す

中野吉之伴

期待を背に、後半途中から左FWで出場

バーゼルでデビューを果たした柿谷(中央)。チームは勝利したものの、なかなかボールに絡むことはできなかった 【写真は共同】

 その瞬間、バーゼルサポーターから大歓声が起こった。スイス・ライファイゼン・スーパーリーグ第3節対FCトゥーンの78分、日本代表FW柿谷曜一朗がMFモハメド・エル・ネニーと交代でピッチに登場。バーゼルが押し込まれていた時間帯だっただけに、起爆剤として大いに期待されての出場となった。

 前半は完全にバーゼルペース。19分にマルコ・シュトレーラーが相手GKのキックミスからあっさり先制ゴールを挙げると、27分には右サイドバック・フィリップ・デゲンのクロスをファーサイドから飛び込んできたシュケルゼン・ガッシが豪快に頭で合わせて2−0。ところが後半開始直後の49分、トゥーンがFKからゴールを奪い、2−1に追い上げる。ゴール前が混戦になったところで、後半から途中出場のアンドリア・カルディエロビッチが右足で押し込んだ。動きが積極的になったトゥーンはスペースを埋めながら相手の縦パスに対して激しいチャージでボールを奪いとり、チャンスに結びつけていく。シュトレーラー、ガッシのところでキープできなくなったバーゼルは、ボールをうまく前に運べず、効果的な攻撃が見られなくなった。

 59分からアップを開始していた柿谷はアシスタントコーチに呼ばれると、通訳を介して伝えられる指示を真剣に聞き入った。自ら戦術ボードを指で示しながら、入念に確認。ポジションは4−3−3の左FWだ。ロングボールが行き来するため、なかなかボールに触ることができない。相手ボールになるとダッシュで守備に移る。パウロ・ソウザ監督がコーチングゾーンからピッチ上の選手に何か伝えようとすると、そのジェスチャーをじっと見つめ、意図を解釈しようとしていた。

システム変更で左サイドハーフに回る

激しいタックルでボールを奪った柿谷に、ファンからは拍手が送られた 【写真は共同】

 83分、自陣FKからのロングパスがシュトレーラーに向かって飛ぶのを見た柿谷は、タイミングよく守備ラインの裏に抜け出した。ヘディングで流されたボールは走り抜けたその先に落ちてきたが、必死に止めようとぶつかってきたトゥーンDFシュテファン・グラルナーともつれるように倒れてしまう。後ろからのチャージだけにPKかと思われたが、主審は首を横に振った。思わず立ち上がり大きいジェスチャーでアピール。味方選手も主審に詰め寄り抗議したが、判定は覆らず。

 スタジアムがざわつく中、トゥーンが同点に追いつく。スローインからの流れで右サイドからペナルティーエリアへパスが送られると、FWベラート・サディッチがワントラップから振り向きざまの右足シュートをゴール左隅に沈めた。ゴール裏のトゥーンファンが飛び跳ねて喜ぶ。

 ソウザ監督は87分にDFデゲンに代えて、FWブリール・エンボロを投入。4−4−2へシステム変更し、柿谷は左サイドハーフに回った。直後の88分、ペナルティーエリア右すぐ外からのFKをルカ・ツフィがゴール前に送ると、スイス代表DFファビアン・シェアが高い打点のヘディングで合わせて勝ち越しに成功。輪になって喜ぶシェア達のもとに、柿谷も駆け寄り、飛びついて一緒に喜んだ。

 最後の反撃を試みるトゥーンに対して、バーゼルは集中した守備で対応。柿谷も90分に激しいスライディングタックルでボールをカット。バーゼルファンから拍手が挙がった。本人は「そういうのは、あまり気にせず」と試合後に語っていたが、ファンはそのあたりを気にする。この新しい選手は「クラブのために戦える選手なのか」「ハートのある選手なのか」「やるべきことが分かっている選手なのか」と。91分、左サイドでマルセロ・ディアスからファーストコンタクトとなるパスを受けると、ドリブルで運び、スペースに抜け出したエンボロへパス。結局、試合はそのままバーゼルが3−2で勝利した。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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