若手の台頭が著しいスイスの育成事情 “名伯楽”が示す決勝Tへの確かな道筋
08年ユーロを契機に強化プロジェクトがスタート
メーメディ(右)やジャカ(左)など若手の台頭が著しいスイス。08年から推し進めてきた育成の強化が実を結びつつある 【写真:Action Images/アフロ】
それにしてもなぜ最近のスイスに好タレントが多く出現しているのかご存じだろうか。そもそもスイスはW杯でベスト16入りを果たした1994年米国大会を除き、70年から2002年まで9大会中8大会で予選敗退、ヨーロッパでは中堅国の一つでしかなかった。総人口は787万人と少なく、総面積4万1290平方キロメートルのうち水面積率はわずかに3.7%の狭さ。周りの強国と比べ、サッカー協会のサポートもお世辞にも十分だったわけではなかった。
そんなスイスの転換期になったのがオーストリアとの共同開催となった08年のユーロ(欧州選手権)。「母国開催で下手な姿は見せられない」「スポーツ的にも経済的にも大きなチャンス」と気合を入れたスイスサッカー協会(ASF)は大規模な強化プロジェクトをスタートさせる。代表チームへのサポートを第一としながら、「スイスサッカーの将来は代表チームにだけ依存するわけではない。現在のスイスサッカーは工事中の状態」とスイスサッカー全体の発展へ向けてユース育成の充実・底辺層に至るまでの幅広い活動へ積極的に関与するようになった。
アカデミーの設置とサッカーの分析・研究
サッカーはさまざまな分野で研究・分析が進んでいる。技術・戦術・フィジカル・メンタル・インテリジェンスが、トップレベルでも対応・順応できるだけのベースを身につけなければならない。例えばフィジカル面であればスピードと持久力のバランスを重視している。世界のサッカーはますますスピードが要求され、ダッシュの頻度が上がっているが、一つの答えがあるわけではない。統計学では4秒ごとに異なるアクションが求められると、さまざまなダッシュの繰り返しをいろいろなトレーニングメニューの中で行い、選手自身が持っている素質とサッカーに求められる要素の間で理想的なバランスを見つけようとしている。
縦・横で結び合う強固なネットワーク
例えば、FCバーゼルは地元の有力クラブであるコンコルディア・バーゼルとパートナーシップ契約を結んでいる。自前のアカデミーですべてのタレントある選手を保有できるわけではなく、すべての選手が順調に成長するわけではない。伸び悩んだ子どもを受け入れてくれるクラブも必要だった。またジャスト・フットボールアカデミーというサッカースクールとも提携。ここはテクニック・コーディネーションといった選手の個人レベルを挙げるスクールとして有名で、そのノウハウをコンコルディアとも共有させている。一度コンコルディアに“落ちて”きた選手がこうしたサポートでまたバーゼルや他のプロクラブの門をたたく例も少なくないという。さまざまな取り組みが少しずつ実を結び、各クラブが縦・横で結び合うネットワークが密に構築され、スイスには将来に向けてのしっかりとした土台ができ上がってきたのだ。