内田篤人「オレ、まだ運があるかも」 ケガの瞬間からリハビリの日々までを語る

二本柳陵介

両親からは手紙で「ボチボチやってください」

W杯直前の親善試合では3試合ともに先発出場。キプロス戦ではゴールを決めるなど、徐々にコンディションを上げている 【写真:アフロ】

――飛行機では何を考えていましたか?

「日本に帰れるぞ!」っていうのと、日本のリハビリ施設でのトレーニングはきついなという気持ちで半々でした。

――帰国したらいつもきちんと取材対応する内田選手が、あの日ばかりは顔を伏せてノーコメントだったと聞きました。私の知り合いの記者も「あんなに沈んだ内田篤人を見たことない」と電話してきました。

 足が痛かったし、「ごめん今は話せないんだ」と思って……。

――そこから病院へ直行したんですよね?

 忘れもしない大雪のバレンタインデーですよ。車は雪で走れなかったから電車で移動しました。病院に行って、その日にレントゲンを撮って次の日の朝に連絡しますって。それで翌朝、先生から「とりあえずはオペはなしで」と言ってもらえて。僕もしたくなかったから。

――ヨーロッパと日本で意見が違ったと。

 向こうではここをケガしたら手術するらしいです。大体の人は。でも手術したからって早く治ってW杯に間に合うかって言ったら、そういうわけでもないですし。

――ご両親も心配して連絡してきたでしょう?

 そうですね。とりあえず(日本に滞在するとなると)車がいるな、と思っていたので「業者に頼んで、(静岡の実家にある車を)東京まで持ってきてほしい」と言ったら、「もうリハビリ施設の前に持ってきた」と両親が来てくれて。ちょっと話して静岡に帰っていきました。それで、その後に母から手紙が送られてきました。

――どんな内容でした?

(手紙を取り出して)「篤人へ。あっという間に一カ月が経ってしまいましたね。リハビリ大変だったでしょう? 日本にいてもまったく力になってあげられず、申し訳なく思います。チームに戻って、まだリハビリが続くと思います。無理をせずゆっくり治してください。お参りにいってお守りを頂きました。スーツケースにでも入れておいてください。良い方向に向くことを祈っています。食事をしっかり摂って、ボチボチやってください」。

JISSでは他競技の選手とリハビリ

――JISS(国立スポーツ科学センター)での生活は?

 8時40分くらいに起きて、ご飯を食べて、リハビリ。そこから12時半くらいまで。

――足をそんなに使えないから、やはり上半身のトレーニングが中心ですよね?

 ペダルを手でこいで、それを30秒。30秒休んで、というトレーニングはしていました。僕はINAC神戸の平野(里菜)選手とかと一緒にやっていて、その間に長谷部(誠)さんのグループが腹筋とかやるんです。
 腹筋サーキットと言うのですが、それを横から「日本のトップ選手がそんなんで大丈夫か!?」とチャチャいれながら。長谷部さんは「笑わすな!」って言っていたけど、みんな笑いながら、いい雰囲気でできていましたね。

――JISSで他の競技の選手と触れ合って、思うところはありましたか?

 サッカー選手の環境は恵まれてるなって。新体操の子とか若いけど、すごい頑張っていました。リハビリとか全然手を抜かないし。一度、バドミントンの選手が「コソ練行ってきます!」と言ったから、付いて行ってシャトル拾いをしました。「すごい人に拾ってもらっちゃってる」って(笑)。その姿を見て、「あー、オレも昔、コソ練やってた。最近やってないな」と反省したり。

小笠原からは「カットバン貼っとけ」とアドバイス!?

内田は2014年の幻冬舎文庫のイメージキャラクターをつとめている。めったに見られないメガネをかけたショットも 【幻冬舎】

――JISSには約3週間いましたが、その間にアルベルト・ザッケローニ監督とは会いましたか?

 はい。ロッカーで話しました。ケガの状態を細かく聞いてきました。代表の早川(直樹)トレーナーが監督に「23人の発表までに復帰して治せばいいのか、多少遅れてもW杯までにこのケガを治せばいいのか、たぶん内田は気にしていると思いますよ」って言ったらしいんです。そうしたら、監督は「それは明言できない」と。やっぱり監督の立場としては、言えないと。「普通にやれば間に合うようだから、再発しないように普通にやりなさい」とは言ってくれた。

――捉え方が難しいですね。

 早川さんは「発表に間に合わなくてもしっかり治せば選んでやるよ」と捉えたようでしたけど、僕自身は「発表までに復帰しとかないといけない」と思いました。

――内田選手が尊敬している小笠原(満男)選手(鹿島)とも話しましたか?

「おまえ、ケガ大丈夫なの? カットバン貼っとけ! カットバン貼っとけば治るんだよ」って(笑)。「いや、治んないっす」って返して。やっぱ満男さんはそういうこと言ってくれるからいいな、と改めて思いましたね。

――日本では代表戦(ニュージーランド戦)も見に行っていました。

 はい、試合を眺めているっていう感じでした。特に焦ることもなく。

――改めて、チャンピオンズリーグのレアル・マドリー戦に出られないのは本当に残念でした。年末に「この試合は親友をドイツに呼ぶ! 親友の会社の上司にも直接あいさつして、許可もらった」と、張り切っていたので。

 そうでした。でも、彼は旅行をキャンセルしないで僕がいないドイツに来ました。「1人旅したかったし、内田の戦っている環境を見ておきたかったから」と。ただ、彼は「オレ、ここに2日いただけで(何もなくて)飽きた!」と言っていました(笑)。

まだツキはある。W杯では全快に!

 その後、内田は懸命のリハビリを経て、5月27日のキプロス戦で復帰を果たし、決勝点を決めてみせた。W杯の直前合宿のコスタリカ戦では、先発して70分まで、ザンビア戦でも67分までプレーしている。

 JISSでのリハビリを終え、内田が東京から成田空港に向かう車中でのことだ。
「何気なく外を見ていたら、日本に数台しかないサッカー日本代表のタクシー見かけたんです。アッキーも言っていたけど、おっ、オレまだ運があるかもって」

 そう、重いケガを負いながらも、まだツキはある。W杯にはきっと間に合う。

内田篤人公式写真集

内田篤人公式写真集「2 ATSUTO UCHIDA FROM 29.06.2010」 【幻冬舎】

 6月6日に発売になった内田篤人公式写真集「2 ATSUTO UCHIDA FROM 29.06.2010」。写真は内田篤人自らがセレクトし、352ページ、447カットを掲載している。内田の選んだ基準は「特にないけど直感。あとは変顔じゃないのを(笑)」。¥3600(+税)

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著者プロフィール

出版社、幻冬舎の編集者。雑誌「ゲーテ」副編集長。長谷部誠「心を整える。」、内田篤人「2 ATSUTO UCHIDA FROM 29.06.2010」「僕は自分が見たことしか信じない」、岡崎慎司「鈍足バンザイ!」、川島永嗣監修「サッカー英語ドリル」、中村俊輔「察知力」など、サッカー関連の書籍も担当している。

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