羽生結弦を高みに導いた2人のカナダ人=GPファイナル初制覇でソチ五輪へ前進

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「ちょっと出過ぎ」293.25点での初Vも苦笑い

自己ベストを28点更新する合計293.25点でGPファイナル初優勝を決めた羽生。その裏には2人のカナダ人の存在があった 【坂本清】

「僕自身のなかでは少し悔しさが残るフリースケーティング(FS)になってしまいましたが、本当にたくさんの点数もいただきましたし、ちょっと出過ぎかなという気もします。4回転サルコウを転倒してしまったあとも、きちんと演技をつなげられたのは大きな収穫だと思っています。すぐに全日本選手権がありますが、それに向けてしっかりと頑張っていかなきゃいけないなと思いました」

 羽生結弦(ANA)は苦笑いをしながら、自身の演技をそう振り返った。12月6日にマリンメッセ福岡で行われたフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル。男子FSでは、自己ベストを更新する193.41点をマークした羽生が、合計293.25点で、追いすがるパトリック・チャン(カナダ)を振り切り、同大会初制覇を飾った。羽生は冒頭の4回転サルコウこそ転倒したものの、続く4回転トゥループをきれいに着氷。その後もコンビネーションジャンプを決めるなど、出場6選手中ただ1人技術点が100点を超える演技で観客を魅了した。

「本当に一生懸命やろうと思っていました。(4回転)サルコウの前は、どうやったら跳べるか、どういったことを注意するか、そういうことばかり考えていたんです。ただあまりにも多くのことを考え過ぎていた。だからこそ(4回転)トゥループは一生懸命頑張ろうと。それしか考えていなかったです」

 これまで課題としていた演技構成点もすべて9点台と、11月のエリック・ボンパール杯(8点前後)のときから飛躍的に向上。「僕のなかでは良かった部分がないと感じています」と羽生は謙遜したが、これまで培ってきた練習の成果が、この大舞台で実を結んだのは間違いない。結果として総合得点でも自己ベストを28点更新するなど、一気にひと皮むけた感もあるが、果たして何があったのか。その裏には2人のカナダ人の存在があった。

選手の自主性を重んじるオーサー氏

羽生がオーサーコーチに師事してから1年半が経ち、2人の信頼関係は確実に増している 【Getty Images】

 1人目は羽生のコーチを務めているブライアン・オーサー氏だ。1984年と88年の五輪で銀メダリストに輝いている同コーチのもとで、羽生が指導を受けるようになったのは昨年5月。当時は意思疎通を図ることも難しく、お互いが探り探りで言葉を投げかけているような状況だった。しかし師弟関係を結んでから1年半が過ぎた現在では、羽生の英語力が上がったこともあり、2人はうまくコミュニケーションが取れている。自分の思っていることが相手にきちんと伝われば、双方の信頼関係が増すのは当然のこと。スムーズな会話が成長の促進につながったのは容易に想像がつく。

 羽生は述懐する。
「(仙台からカナダに)拠点を移す、コーチを替えるというのは自分にとってものすごく大きな変化だったんです。自分にとって言葉の壁は大きかった。ただ今年は、コーチとのスタートラインが全然違っていたので、ものすごくナチュラルに成長していくことができた。それはスケーティングであったり、体力であったり、そういう自分の弱点だったところを、オーサー、(コーチの)トレーシー・ウィルソン、(振付担当の)デビッド・ウィルソンが本当に分かってくれていて、みんなでしっかり頑張れたんです」

 オーサー氏も羽生の成長に目を細めている。
「(今大会の)演技には満足している。100パーセント完璧な演技ではなかったが、そのなかでもわれわれが改善しようと取り組んできた部分を明確にクリアできたことが収穫だった。数年前の彼のスケーティングと比べてみると、成長、成熟してきたと思う。このプロセスは実はすごくゆっくりしているもので、草が伸びてきているのをじっと見守るもようなものだ。その違いが明確になってきた。スケーティングスキル、スタミナ、演技とすべての面で成長してきたと手応えを感じている」

 オーサー氏は指導をする際、選手の自主性を重んじる。羽生に対しては常々「君が責任を持ち、主導権を握ってやりなさい」と伝えている。もちろんそれは羽生を1人の成熟した選手として認めているからこそ。「コーチとしてできることは限られている。それは選手がどういう道を進むべきなのかを見つける手伝いをすることだ」。そう語るオーサー氏は、羽生を正しい方向に導こうとしており、羽生自身もその道に進みつつある。

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