狩野舞子、宮下遥の現在地。=そして全日本セッターの行方は…?

米虫紀子

セッターに転向して1年が経つ狩野舞子。その現在地は? 【坂本清】

 注目の長身セッター同士の対戦が実現した。
 東京国体2013準決勝、佐賀代表久光製薬スプリングス対岡山シーガルズ戦で、久光製薬は、セッターに転向して1年の狩野舞子が先発出場。岡山は、1年目のセッター森田結香が先発したが、第1セットの10−13とリードされた場面で、全日本から戻っていた宮下遥が投入された。
 1、2セット目は、久光製薬のサーブレシーブが安定し、狩野は相手に的を絞らせないトス回しで攻撃陣を生かした。高い位置からのトスアップやブロックで、185センチの長身のメリットを存分に発揮し、久光製薬は全日本選手6人を欠きながらも2セットを連取した。第3セットは、岡山が中盤以降巻き返してセットを取り、第4セットも岡山がリードしたが、久光製薬は狩野に代わって入った古藤千鶴が流れを変え、デュースの競り合いを制し、セットカウント3−1で勝利した。

転向から1年、狩野がぶつかった壁

 勝ったものの、狩野は試合後、青白い顔で「あー、なんでああなるんだろう」とつぶやいた。
「最初はよくても、それが続かないという試合を、ずっと繰り返している。今日はトスどうこうというよりは、使いどころの問題。今のはレフトでしょ、という場面で、違うところを使ってしまったり……」
 狩野が最も悔やんだのが、第3セット終盤の2本のトスだ。一進一退の展開の中、16−17の場面で、ミドルブロッカー水田祐未のCワイドが、待ち構えていた相手ブロックに捕まった。その後、狩野のブロックなどで一度は追いついたが、再びCワイドがコンビミスとなり20−22と引き離され、そのセットを失った。ブロックが1枚になっていたレフトに上げておけば、と狩野は後悔する。
「最後はレフト勝負になるので、できるだけそれまでにセンターやライトを使いたいという意識があったんですけど……。点数を見ろって話ですよね。わざわざそこに上げなくていい場面で上げてしまいました」

 中田久美監督も、「あのトスミス、トス回しミスで流れが変わった」と手厳しい。
「勝負どころで、難しいことをしなくていいんですよ。うちはスパイク力があるんだから。スパイカーの持っている力を出させるトスを上げればいい。相手を見ながら、味方を見ながら、使い分け、組み立てるのがセッター。そこがまだまだ。やらなくてもいいことを、変なところでやろうとしていますね」
 ただ、今の狩野のそうした悩みや、中田監督の要求は、狩野がこの1年で着々とセッターの階段を上ってきたからこそのものである。

 セッターに転向してまず最初は、いかにボールの下に素早く入るかということに苦労した。また、スパイカーの姿が見えないライト側にバックトスを上げるのは勇気のいることで、どうしても自信を持って上げられるレフトに偏りがちだった。それらが徐々にクリアされて、終盤の勝負どころでも上げられるトスの選択肢が増えたからこそ、今、その選択肢の中からどこを選ぶべきなのかという、「上げどころ」という新たな壁にぶちあたっている。

 チームの勝利を考えれば、今の時点ではベテランセッターの古藤を起用することが近道だ。しかしこの夏場、サマーリーグでも国体でも、中田監督は狩野を先発で起用し続け、とにかく試合経験を積ませてきた。「よくやってると思いますよ」というのが中田監督の本音だ。けれど、あくまでも要求に妥協はしない。
「狩野舞子が背負っているもの、背負おうとしているものは、それほど大きいものだと思うから」
 指揮官はそれを共に背負い、導いていこうとしている。

「2人の遥がいる」

 一方、岡山の宮下も苦しんでいた。
 今年7月に全日本に合流し、8月のワールドグランプリで国際大会にデビューした。身長176センチ、今春高校を卒業したばかりの日本待望の若手大型セッターは、長年全日本を支えた司令塔、竹下佳江の後継者というプレッシャーにあえぎながらも、「私には完璧は求められていない。トスでマイナスの分は、サーブやブロックやレシーブで頑張ろう」と体当たりのプレーで存在感を発揮した。

 しかし、岡山に戻ってすぐに迎えた国体では、スパイカー陣とコンビが合わず、レフトへのトスが伸びすぎてアンテナに当たるというそれまでになかったミスも犯した。
 岡山では、どちらかというとネットに近く低いトスをスパイカーが打ち分けるというスタイルだが、海外の高いブロックを相手にする全日本では、ネットから離れた、ある程度高さのあるトスが必要で、しかもスピードも求められる。

 岡山の河本昭義監督は、こう分析する。
「今、遥の中に2人の人間がいるようなものです。以前の遥と、全日本に行って、腕の力でトスを速く突いたり伸ばしたりといった感覚を身につけた遥。どちらに照準を合わせるかということになるんでしょうが、彼女の今の筋力では、シーガルズでやっていることが正しいんじゃないでしょうか。男子や他のチームのセッターなら、腕の力でボールを突くことができると思いますが、彼女のいいところは、筋力でなく、ボールを芯で捉えて上げられるところですから」

 所属チームと全日本で求められるトスが大きく違うことは、宮下が全日本の軸になる上では難題となっていきそうだ。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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