米国戦“初勝利”の背景にあるもの=日本女子代表 1−0 米国女子代表

江橋よしのり

米国戦の朝に舞い込んだ2つのサプライズ

体調不良で欠場した澤の代役には、田中明日菜を抜てき。佐々木監督は「冷静にボールを動かせる」と期待を寄せた 【写真:戸村功臣/アフロスポーツ】

 その日の朝、なでしこジャパンに2つのサプライズが舞い込んだ。1つは良いニュースで、もう1つは悪いニュースだった。

 良いニュースとは、大野忍の代表通算100試合出場をみんなで祝ったことだ。宮間あや、福元美穂が中心になり、大野に内緒であらかじめ選手やスタッフから祝福メッセージ動画を収録しており、それらをつなぎ合わせたメッセージビデオを選手全員で鑑賞したという。
「代表デビュー戦は2003年(1月12日の親善試合)の米国戦。そして100試合目も米国戦。巡り合わせを感じますね。10年前は無我夢中でプレーしたことを覚えています。でも、当時の米国にはまったく歯が立たなくて。同じ人間とは思えないほどでしたよ」
 大野はそう言って、少しだけ感傷的な気分に浸った。

 悪い方のニュースとは、澤穂希の米国戦欠場の一報である。試合前日、「100試合記念のアシストをしたい」と、澤は大野に伝えていたそうだが、この日の朝に体調が悪化した。澤はチームに帯同せず、ホテルで静養することになった。
「澤さんに余計な心配はかけたくないな」
 キャプテンの宮間は、そう思いながらスタジアムへと出発した。

澤の代役は「冷静にボールを動かせる」田中

 ポルトガルで開催されている、女子サッカーの国際親善試合「アルガルベカップ」。B組第3戦、なでしこジャパン対米国女子代表の試合は、アルガルベスタジアムで行われた。両チームとも同組のノルウェーとデンマークに連勝しており、得失点差で米国がリード。なでしこジャパンが決勝進出するためには、この試合で米国に勝利しなければならない。

 観客席には日の丸を掲げるポルトガル人の姿が見えた。興奮気味に彼は語る。
「おれは去年のワールドカップ(W杯)で、なでしこジャパンのファンになったんだ。この試合を見るために、昨日のうちにリスボンから来たんだぜ」

 現地在住のジャーナリストに言わせれば、ポルトガルは「女子サッカー不毛の地」であるらしい。今大会も、試合はすべて平日の昼間に開催されている。「週末はスタジアムを男子に押えられていて、国際大会といえども女子には回って来ないからね」と、そのジャーナリストは肩をすくめる。したがって、どの試合会場も観客席は寂しい。そんなアルガルベの荒野にも、なでしこの種はちゃんと根を張り、芽を吹かせている。かの地のなでしこサポーターは、試合中も「ジャポン」コールで選手たちに声援を送っていた。

 なでしこジャパンの先発メンバーは、GK福元。DF近賀ゆかり、岩清水梓、熊谷紗希、鮫島彩。ボランチには阪口夢穂と、澤に代わって「冷静にボールを動かせる」(佐々木則夫監督)田中明日菜が入った。サイドハーフは右に大野、左に宮間。FWは今大会絶好調の永里優季と、ひざの痛みがひいて今大会初出場となった安藤梢だ。
 14時10分。雲一つない青空の下、キックオフの笛が鳴った。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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