岡田武史氏が語るリーダー論、マネジメント論=特別開講「岡田ゼミ」要旨

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岡田氏は自身の経験を交えながら、リーダーシップ、マネジメントなどについて持論を展開。W杯での秘話も飛び出した 【スポーツナビ】

 サッカー日本代表前監督の岡田武史氏は17日、母校の早稲田大学で講義を行った。岡田氏はWOWOWサッカー解説を務め、同社のリーガ・エスパニョーラ特別サイトでオリジナルコラム「岡田ノート」を展開している。今回はその特別版として、「岡田ゼミ」を開催。スペインの2大クラブ、バルセロナとレアル・マドリーを題材に、組織論、リーダーシップ論、マネジメント論などを独自の視点で解説した。
 以下は、「岡田ゼミ」の要旨。

中澤をキャプテンから外した時の決断

テーマ1:リーダーシップ

(レアル・マドリーのジョゼ・モリーニョ監督について)戦術は特段変わったことはしていないと思います。すごいオーソドックス。ただ、やるべきことをきっちりやらせている。特にディフェンスに関して。おそらく彼は選手のハートをつかむすべに長けている。外にどう思われようが選手との信頼関係を築き、これはこびを売るのではなく、一線を引きながらも選手を引き付けている。愛情を持ちながらも、ある一定の距離を置くスタンスですね。あれだけの選手があんなに付いてくるということは、それだけのものを持っている人なんだなと。

 僕なんかもそうなんですけど、選手に愛情を持って接しないと、絶対に選手はついてこないんですよ。選手のことを考えてやるんだけど、そこで選手に好かれたりしようとしたら、ダメなんです、余計に。たぶん、モリーニョ監督の感覚からすると、ものすごいポジティブなことを選手に言ったり、選手を褒めてやる。でも、ある一線を絶対に引いていると思うんですね。グループをまとめていく時に、当然、僕も選手のことを褒めていいプレーを引き出してやらないといけない。僕はマスコミに向かって選手の悪口を言ったことは一回もないです。でも、ある緊張感がないとダメなんですね。その緊張感をどうやって持たせるか。

 僕の場合は、選手がこうやりたいと言ってきたら聞きますけど、違うと思ったら監督の全責任を負って、こう考えてこうやると伝えます。やってくれたらうれしい。でも、冗談じゃない、どうしてもやってられないとなったら、これはしょうがない。非常に残念だけど、あきらめるから出て行ってくれと。怒りも何もしない、お前が決めてくれと。その時に、頼むからやってくれとやると、チームがまとまらない。だから、今回の代表チームでも選手は、僕が口で怒ったりしないですけど、選手は「このオッサン、何するか分からん」と思っていたかもしれない。そういう緊張感がものすごい大事です。中村俊輔であれ、中澤(佑二)であれ、(田中マルクス)闘莉王であれ、どんな中心選手でもそのスタンスは崩さない。おそらくモリーニョ監督も、クリスティアーノ・ロナウドだろうが、誰だろうが、スタンスは崩さないと思います。そういう方が選手たちはついてくるんです。

 僕は中澤をキャプテンから外したじゃないですか。同世代で仲のいい俊輔、楢崎(正剛)がレギュラーから外れたでしょう。彼らは仲がいいんですよ、親友なんですよ。そうしたら、あの2人がガッカリしているのに、おれだけキャプテンとして、さあ行くぞって元気よくいけるかなって。ちょっと遠慮があるんじゃないか、その遠慮が命取りになるんじゃないかって思って、キャプテンを外したんです。部屋に呼んで(中澤に)なんて言ったか。「おれは今回ワールドカップ(W杯)で勝つために、キャプテンを代えようと思う。お前が悪いわけじゃない。でも、代える決断をする。納得してほしい」。それ以上は言わないです。言わないですけど、その後ろには、どうしても納得できないなら、残念だけどあきらめるから出て行ってくれ、という無言の言葉を感じたんだと思います。中澤も「分かりました。大丈夫です」と。もうそれだけです。

(バルセロナのジョゼップ・グアルディオラ監督について)非常に細かく相手を分析して、こういうふうに対応しようとか、すごい考えている人なんじゃないかな。例えばメッシを真ん中に持ってきた時に、ある試合では右にビジャ、左にペドロを置くんですけど、それが良かったのに別の試合では右左を変えたりするんです。なんでだろうなって見ていて、相手の右サイドバックが攻撃的に来るんでペドロをつかそうとしているのかって。たぶん、そういうことをすごい緻密(ちみつ)に考えているんじゃないかな。これだけのメンバーがいながら、それだけ緻密に考えているとはすごい人だなと。僕なんか、まあ大丈夫だろうと思っちゃいますけど(笑)。実際は分からないですけど、外から見ていて、そういう感じを受けました。

教育、指導とは「引き出す」こと

テーマ2:マネジメント

(選手の)わがままなんてかわいいもんですよ(笑)。こっちが腹をくくっていたらいいんです。(選手が)嫌ならしょうがない。それと、選手はみんな自分を認めてもらいたいんです。僕は選手とコミュニケーションを取る時に面接みたいにしゃべりません。でも、おれはお前を見ているよ、認めているよ、ということを伝える。そのためには、一緒にジョギングする時に「紅白戦のあのパス素晴らしかったな」「あそこのタックルは良かったぞ」と言ってやる。おれは見ているよ、ということを伝えるんです。そうしたら選手はパッと明るくなる。そうやって選手のいいところを見てやる。

 教育は英語で「education」ですよね。その語源はラテン語で「引き出す」という意味なんです。指導、教育というと、空箱に何かを入れてやることだと思うんですけど、違うんです。中に入っているものを引き出してやればいいんです。例えば、サッカー選手なら、みんな勝ちたいと思っている。それをうまく引き出してやる。認めてやって、引き出してやる。さっき言ったように、緊張感を持った中で引き出してやる。そうすると、そんなに難しいことでもないんです。

 よくJリーグの若い監督から電話がかかってきて、特に外国人選手のことで相談を受けるんですよ。「外したらふてくされるし、使ってもやらないんですよ」と。「お前が必要じゃないなら外せばいいじゃん」「でも、ふてくされるし……」「ふてくされたら帰せばいいじゃん」「そうしたら、いなくなって……」。要は、腹のくくり方次第なわけですよ。帰ったらしょうがない。それが自分の縁なわけで。だから、そんなにマネジメント自体は難しくないと思いますけどね。

(メッシに自由を与え、ほかの選手にそれを納得させることについて)勝つためにそれが必要かどうかですね。僕がコンサドーレ札幌の監督の時にエメルソンという選手がいたんです。彼が浦和レッズとの試合の前日に練習に遅刻してきたんですよ。前日練習に遅刻したら普通は使いません。でも次の日はレッズ戦です。そこで全員を集めて、「エメルソンは今日遅刻してきた。本来は使わない。でも明日の試合はどうしても勝たないといけない。勝つためにはエメルソンの力が必要だ。だから、おれはメンバーに入れる。文句があるやつ、何か意見があるやつは言いに来てくれ」と。自分が作ったルールに縛られるよりも、勝つためにどうするかが一番なんです。(バルセロナの選手たちも)みんな勝つためにメッシを自由にしてやらなければダメだと思っているんでしょうね。

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