バレー日本の新戦力へ―― 20歳・江畑幸子

田中夕子
 テレビ的に言うならば「彗星(すいせい)のごとく」現れた新星。昨夏には狩野舞子が、2005年には菅山かおるがそうであったように、また1人、今夏のワールドグランプリ(8月6日〜29日)で「彗星のごとく」現れた選手がいた。
 20歳の江畑幸子(日立)だ。

恩師の佐々木監督「あれはね、面白い選手になりますよ」

今季、初代表に選ばれた20歳の江畑幸子。約1カ月の戦いで、持ち味をしっかりとアピールした 【坂本清】

 秋田県・聖霊女短大付高時代の恩師、佐々木純一郎監督は江畑の活躍を3年前に予言していた。
「エバ(江畑)はね、大舞台でびっくりするようなプレーをするんです。あれ、そんなに高いところで打てたか? そんな打ち方ができたのか? 高いブロックを、ヒョイヒョイって越えてパチンと決める。あれはね、面白い選手になりますよ」
 春高やインターハイに出場はするものの、なかなか上位進出することはできない中で迎えた江畑が高校3年時、07年の秋田国体。大会前から全国制覇が期待される男子秋田代表・雄物川高の陰に隠れていた女子秋田代表を3位に押し上げたのが江畑だった。

 サーブレシーブには参加せず、とにかく1人で打ちまくる。高校生年代ではよくいるタイプのエースだが、秋田国体で見せたようなここ一番での勝負強さと、崩れたトスへの対応能力は同年代の選手の中でも群を抜いていた。高校卒業後に日立佐和(現:日立)リヴァーレに入っても、プレースタイルは変わらず。2年目に出場機会を得ると、打点の高さを生かしたスパイクを武器に、09/10チャレンジリーグでも11試合でチーム最多の143得点を挙げる活躍を見せた。
「サーブレシーブが崩れて二段トスになったり、攻撃が苦しくなった場面こそ、私に(トスを)持ってきてほしい。そういうところで決めるほうが、得意なんです」

 真鍋政義監督の目に留まったのは、まさにそこだった。
「サーブで崩されて終わり、ではなく、サーブで崩されてからどうするかを考えると、ブロックアウトと、リバウンドを取る技術が不可欠です。空中でボールを扱う能力に長けた江畑は、まさしくその技術を持った選手です」
 ワールドグランプリでも、予選初戦のイタリア戦からスタメンに抜擢(ばってき)され、以後、決勝ラウンドの5試合を含む13試合中10試合にスタメン出場。オランダ、ブラジルなど高さを誇る相手に対し、持ち味をいかんなく発揮した。

国際大会での、手痛い洗礼

東京ラウンド第1日、ドミニカ共和国戦でシンディ・ロンドンと対峙する江畑 【坂本清】

 だが、本人の満足度は低い。
 予選東京ラウンドでも、手痛い洗礼を受けた。
 パワーと高さで勝るドミニカ共和国に対し、得意のストレート打ちを軸にして正面から攻めてしまった。当然相手の力に阻まれ、ブロックアウトどころか、フォローすらできない強烈なブロックで何本も攻撃を阻まれた。
「1試合だけいいとか、1セットだけいいというレベルじゃダメなんです。高さもシステムも違う相手に対して同じパターンで攻めていてもダメ。波をなくさないと世界では戦えないと痛感しました」

 初めての国際大会で露呈した課題は、現時点ではすべて前向きなものであることには間違いない。だが、守備の負担が少ないことを考えると、確かに今回の活躍だけでは今後のレギュラー獲得を確約させるものであるとは、まだ言い難い。
 同じポジションを争う迫田さおり(東レ)、石田瑞穂(久光製薬)、吉澤智恵(JT)もそれぞれ異なる持ち味があり、今回の江畑の活躍が彼女たちを刺激し、さらなる向上へと導く起爆剤にもなるだろう。さらに言えば、昨年のワールドグランプリやグラチャンに出場し、現在はリハビリ中の栗原恵(パイオニア)や狩野が戦列復帰を果たせば、ポジション争いはまた熾烈(しれつ)になることも予想される。
 その中で、江畑が勝ち抜くためには――。

指揮官の高評価を得た江畑。さらなるレベルアップで、その信頼を確固たるものにしたい 【坂本清】

「レシーブは苦手だけど、毎日真鍋さんにしごかれて、最近やっと上がるようになってきたんです。貢献できるレベルには全然なっていないですけど、練習でやった分は結果に出てきているかな、と感じてはいます」
 高校時代の師にも「エバがレシーブを上げたら、それだけで奇跡」と揶揄(やゆ)されるほどだった守備力も、わずかではあるが今大会で成長を遂げた。真鍋監督からも「(迫田、石田、吉澤と比較して)4人の中では江畑が一番良かった。とくに終盤の勝負強さが光った」と高評価を得た。
 3年前の秋田で、そして今夏のブラジル戦で見せたような「大舞台でびっくりするようなプレー」の再現に期待を寄せるのは、決して早計ではないはずだ。

<了>
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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