今なぜ「秋春制」なのか?=Jリーグ秋春制移行問題を考える:第1回

宇都宮徹壱

「2010年からスタート」の予定だった秋春制

東アジア選手権・香港戦での観客数は1万6368人。気温3.6度、雨が降りしきる中のナイトゲームに詰め掛けたサポーターは少なかった 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】

 今年2月、サッカーファンは今さらながらに、この季節のサッカー観戦の過酷さを身にしみて理解することとなった。6日から14日まで東京の味の素スタジアムと国立競技場で開催された東アジア選手権である。いくらテレビ中継に配慮したとはいえ、厳寒のこの時期にナイトゲームを行うのは、どう考えても現地観戦組に対する配慮が欠けていると言わざるを得ない。公式記録を見ると、尋常ではない気温が記されている。中国戦2.5度。香港戦3.6度。韓国戦はちょっと上がって7.3度。ただし香港戦は雨が降ったこともあり、観客数は1万6368人と、Jリーグ開幕以後の国立での代表戦としては最低記録となった。

「この時期に試合はするもんじゃないね。せめて陽があるうちに開催すべきだよね」
「こういう状況でも、あのお方は『サッカーは冬のスポーツ』とか言うのかしら」
「VIPルームは暖かいから、たぶんお客さんのことは気にしてないんだろうよ」

 取材現場でも、こうした会話が何度かささやかれた。「あのお方」とはもちろん、犬飼基昭JFA(日本サッカー協会)会長のことである。第11代会長に就任した2008年7月12日以降(いや、それ以前から)、この人の主張はJリーグのシーズン秋春制移行で一貫している。そんなわけで、こうした厳寒の試合にぶち当たるたびに、条件反射的に犬飼会長の顔が思い浮かぶようになって久しい。

 もう忘れている方も少なくないだろうが、今年は犬飼会長が就任当初にぶち上げた秋春制移行の最初のシーズンとなるはずであった。文末に秋春制の大まかな経緯を記すが、もともとこの問題は、犬飼会長就任以前から存在していた。たとえば06年7月には、代表監督に就任して間もないイビチャ・オシム氏が「日本もヨーロッパにシーズンを合わせた方がよいのではないか」と提言している。さらには、今から10年前の2000年にも「Jリーグネクスト10プロジェクト」の中でシーズン移行問題が議論されており、「06年ごろを目途とした秋〜春制への移行を検討する」ことが盛り込まれている。

 こうして考えると、秋春制の問題は「古くて新しい問題」と見ることができる。巷間で何度も語られているシーズン移行のメリット/デメリットは、実のところ10年以上も前から語られていた。犬飼氏が会長になって、いきなりクローズアップされた問題では決してないのである。ただし皮肉なことに、当初は10年にスタート予定とされていた秋春制は、今年に入ってからまったく話題に上がらなくなってしまった。かくして今年も、Jリーグは例年どおり3月に開幕を迎えることとなったのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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