玉木正之氏「東京五輪に賛成する理由」−前編ー
スポーツライターの玉木正之氏が語る東京五輪招致を賛成する理由とは? 【スポーツナビ】
スペイン・マドリード、米国・シカゴ、ブラジル・リオデジャネイロの4都市が立候補している中、東京のど真ん中で開催する意味とは一体何なのか。辛口発言でおなじみのスポーツライター・玉木正之氏に、“東京五輪”をあらゆる角度から斬ってもらった。
昨今の経済事情を考えると、東京五輪は可能性がある
僕も最初は分からなかったんですよ。石原(慎太郎都知事)さんの点数稼ぎかなと誰もが普通に思うことですよ。僕自身は過去に名古屋五輪招致、大阪五輪招致、長野五輪招致、日韓になったけど、サッカーのワールドカップ招致、そういうのを見てきて、できないものはできないから、言い出しても仕方ないって思っていました。北京五輪の後にロンドンがあり、その後すぐにアジアの東京ってないだろうと。さらに、米国が5大会もなくなるのはないだろうと思った。でも昨今の経済事情を考えるとそうでもないぞと。なぜこのときにと言われると、今でも分からないですね。
――米国も大統領がオバマ氏に変わり、シカゴが本気で来るとは考えられないですか?
シカゴは金ないしね。メジャーリーグのシカゴ・カブスは、1年間売りに出てたんですよ。値段が12億ドル(約1160億円)くらいだったけど。ヤンキースと並ぶ大人気チームの親会社は、トリビューン(シカゴの新聞社)なんですよ。トリビューンの組織が変わって、トリビューンを買ったやつがいた。それはカブスが売れるからですよ。ところが、結局1年間買い手が付かなくて、トリビューンがつぶれちゃったでしょ。その後、カブスは、米国の金持ちが、自前で最後の道楽みたいな形で買ったんですよ。9億ドル(約870億円)だったかな。つまり、よほどのことがない限り、(招致活動のために)シカゴの金は動かないってことですよ。
もっと国内向けのPRを
でも石原さんがIOC(国際オリンピック委員会)の委員の奥さんの趣味まで知ってなきゃいけないとかって言っていたけど、これから何が起こるかわからないよね。実際(88年の)ソウルが成功したときはそれだった。今はだいぶIOCも改革が進んだけど、当時はファーストクラスチケット本位制と言われるぐらい航空券が飛び交ったんですよ。賄賂(わいろ)は露骨だから金は渡せないとかって。今はそれが改革されて、IOCの評価委員が見学に行くとか個別に投票する人を現地に招いてはいけないことになった。けれどもそういうルールがあるとはいえ、別のルートで来たりすることもあるよね。
そのために東京都の招致予算が100億円を超えるわけでしょ。ある人に言わせると、そんなのに金使ってどうするんだと言うかもしれないけど、それは仕方ないこと。アジアのIOCで一番力を持っているのは、ハンドボールの審判問題で話題になったアハマド(アジア・オリンピック評議会会長)だからね。大阪の五輪招致のときに、大阪で接待されて、「おれが30票用意する」って言ったんだけど、大阪は全部で6票しか入らなかった。だから、あの30票はどこに消えたっていう(笑)。そこには魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界があるわけで。
――東京の支持率も70パーセントに上がったという話ですが。
支持率はマドリードがトップで90パーセント。メディアの責任であるけれど、五輪が近づかないと国民の関心は高まらないよ。最終投票が今年の10月ですよね。それに比べたら、最近になって新聞に出始めたのはまあまあ順調ってことですよ。
でも、もうちょっと国内向けのPRっていうのをちゃんとやったほうがいいよね。日本全国にいろんな人が来るよとか、五輪とパラリンピックが日本でできると言っているのはうそじゃないよとか。
お金はもっと医療に使った方がいいという声がある中で、これぐらいのお金はさほどじゃないっていうアピールも少ないよね。
経済効果のことをちょっと知事も言っていたけど、運営費でそれ以上にもっと黒字を出す方法があるはずだから。
――石原都知事は経済効果が3兆円と言っていました。
おれは、経済効果って信用してないんだよ。阪神タイガースが優勝した経済効果はいくらかとか言うじゃない? 優勝するよりも、存在している方がすごいよね。だから東京五輪でいうと、1964年に作った施設をずっと使っている、50年間使っている、それはもとを取っているよね。経済効果というよりも、そういう目で見たほうがいいと思いますね。