高校生たちが挑む天皇杯・皇后杯

小永吉陽子

ウインターカップの再現!

ウインターカップ覇者の洛南は動きに精彩を欠いたが、最後はエース湊谷安玲久司朱が22得点と奮闘し、2回戦へ進出 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 通称「オールジャパン」と呼ばれる第82回天皇杯・第73回皇后杯全日本総合バスケットボール選手権大会が、2日に開幕した。昨夏の世界選手権効果か、インターカレッジ(全日本学生選手権)とウインターカップ(全国高校選抜優勝大会)での熱戦効果か、昨年より2割り増しの5,500人の観客を集めた大会初日。その中で注目の対戦となったのが、ウインターカップ準々決勝の再現となった洛南対明徳義塾だ。

 ウインターカップでは、205cmのセネガル人留学生ファイ・サンバを擁する明徳義塾を相手に、87−76で試合巧者ぶりを発揮した洛南。その後、福岡大附大濠、北陸と強豪校を撃破して4年ぶり2度目となる高校日本一を達成したのが12月30日のこと。あれから中2日、この試合では連戦の疲労からか精彩を欠き、大苦戦を強いられた。

 明徳義塾の高さの前に、苦し紛れのシュートを放ってはリバウンドを支配される悪循環が洛南を襲った。出足で2−16、第3ピリオド開始3分には27−46と、この試合最大となる19点差がついた。ここで洛南はゾーンプレスに活路を見出し、センター谷口大智らの活躍で第3ピリオド終了時には7点差まで猛追。勝負の最終ピリオド、明徳義塾は前半の好調ぶりがうそのように受け身に回ってしまい、ミスを連発。残り3分、激しいディフェンスを仕掛けていた洛南がついに逆転に成功し、68−65で何とか接戦をモノにした。

 洛南・吉田コーチは「ウインターカップが終わったばかりでモチベーションとコンディションをベストにすることが日程的に難しかった。勝てたのは優勝した意地でしょうか」と安堵の様子。敗れた明徳義塾の森田コーチは「前半はうまくディフェンスで引っ掛けられたが、本当に勝ってやるぞという気が見られず、精神的な弱さが出た。エリート軍団と田舎チームの差が出ました」と選手に向けてピシャリと敗因を指摘した。

 王者の意地から劣勢を立て直した洛南。大量リードを奪いつつ崩れてしまった明徳。高校生は気持ちの持ちようでこうも戦い方が変わってしまうのかと、改めてその怖さを感じた一戦だった。悪い内容でも勝つ底力が、高校チャンピオンには備わっていたのだ。

最後は笑って終わりたい――すがすがしい高校生たち

ウインターカップ準優勝の北陸は、OBの五十嵐圭率いる日立と対戦。前半リードを奪う思い切りの良さを披露した 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 今大会は男女あわせて7校の高校が出場している。男子が洛南(ウインターカップ優勝、近畿代表)、北陸(同大会準優勝、北信越代表)、延岡学園(同大会ベスト8、九州代表)、明徳義塾(同大会ベスト8、四国代表)の4校。女子が倉敷翠松(同大会3位、中国代表)、津幡(同大会ベスト8、北信越代表)、英明(同大会ベスト16、中国代表)の3校で、いずれもウインターカップ上位校だ。

 ウインターカップの日程が1日早く終了した女子チームは、一度地元に戻ってから再び上京しているが、移動や帰省を含めると練習できたのは1日半程度。男子は30日の決勝に進出した洛南と北陸は当然東京に残ったが、それ以外のチームも東京に残って調整を図っていた。とはいっても、大会が終了して1日は休養に充てているので、男子もそれほど練習を積めたわけではない。ましてや、高校ナンバーワンを決める頂上決戦の直後。いくらこの大会が「真の日本一決定戦」といえど、モチベーションを保つのは相当難しいだろう。この状況では、高校王者の洛南が苦戦を強いられたことも十分理解できる。 

 だが、そんな中でも高校生たちには、この天皇杯・皇后杯を戦う上で、目標があった。「高校最後の大会だから自分たちらしさを出したかったし、最後は出せた」(松村育実主将)と胸を張った津幡や、「ウインターカップは負けて終わったので、この大会は引退ゲームになるので楽しくやって終わりたかった。今はスッキリした気分」(篠山竜青)と日立相手に前半4点のリードを奪う健闘を見せた北陸、日立電線に57−61と大善戦した延岡学園、学生チャンピオンの日本体育大に3点差まで迫った倉敷翠松など、どこのチームも持てる力を出し切った大会となった。その姿は、格上たちが高校生相手に変に意識して崩れている様から比べると、なんともすがすがしいものがあった。

高校生が天皇杯・皇后杯に出場する意義

ウインターカップ3位の倉敷翠松は、学生チャンピオンの日本体育大に一時はリードを奪う健闘を見せた 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 ウインターカップに最高のピークとモチベーションを持ってくることを第一としている高校生たちが、この天皇杯と皇后杯に出場する意義は何だろうか。3年連続大会に出場している延岡学園の北郷コーチはこう語る。
「地方予選は社会人やクラブチームといったタイプの違う相手と戦えるので、ウインターカップに向けてのいい練習になります。予選は1日2試合行われることが多いので、そうすると社会人やクラブチームより練習量が豊富で体力がある高校生が勝ってしまうことが多いのです。せっかく天皇杯に出るのですから、スーパーリーグ勢には勝てないにしても、格上の相手と戦っていい経験にしたい。その思いで毎年この大会に挑戦しています」
 だからこそ、高校生同士の対戦は避けたいところだが、地方代表として出場している以上、1回戦で“因縁”のウインターカップ対決が実現してしまう可能性もあるというわけだ。もっともここを勝ち抜けば、次にはさらなる高いステージの相手が待っている。

 高校生で唯一1回戦を突破した洛南は、3日の2回戦では大学王者の東海大と対戦する。東海大のエース竹内譲次(日本代表)は洛南の卒業生でもあり、これまた大会序盤の大注目カードだ。「1回戦は高校生同士でやりにくかったが、東海大には思い切りぶつかるだけ。1本でも多くゴールを狙いたい」(洛南・吉田コーチ)
 こういったやりがいある対戦こそが高校生の経験になり、「真の日本一決定戦」に出る意義となることだろう。近畿代表として出場している洛南だが、東海大戦は高校チャンピオンとして、大学チャンピオンに真っ向から挑戦してほしいものだ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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